泥沼の脆い花

□捜し、
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高いヒールのパンプスに、時期外れのサングラスに赤いスカート。中地が豹柄の黒いコートを羽織る背の高い女性なんて、都会でもない街には少し派手すぎたかしら。
どうも、井上京子。悠貴の母です。自分で言うのも何だけど、完全に天才デザイナーだと思う。
あらゆるもののデザインはもちろん、絵を描くのだって得意。パリコレにも参加したし、美大は首席で卒業した。絵描きなんて興味なかったからデザイナーになっただけで、絵描きになっても成功したと思うのよね。
航空会社の彼と結婚して出来た一人娘は、おてんばに育ったわ。私としてはもう少しおしとやかになってほしかったんだけど、私の娘だし、馬鹿でも何とかなるかな、って。実際あの子はちゃんとした人間よ。少し暴れん坊だけど。
さて、久しぶりに我が家に帰ったんだけど、悠貴がいなかったの。水曜日だったから、仕方ないわね。だったら学校まで迎えに行こうかなって思って、すぐにタクシーを呼んだわ。彼氏とか出来てたら、一目見たいものね。久しぶりの日本語で「霧崎第一高校」って伝えた。
道中、運転手さんとお喋りした。
「あの、“双葉の鬼”って知ってます?」
「知らないわ。何それ?」
「滅茶苦茶強い女子高生なんですけどね、双葉中にいたから“双葉の鬼”なんです。私が先日ヤンキーに絡まれていた時、数秒であっさりヤンキーを退治してくれたんですよ。巷では悪い噂で有名なんですが、私にとっては恩人ですね」
すぐに悠貴のことだと分かったわ。あの子は双葉中に通っていたし、強い噂で有名だから。余計に会いたくなったわ。
タクシーを降りて、とりあえず近くにいた男子に声をかけたわ。
「ねぇ、井上悠貴はどこにいるか知らないかしら?」
男の子は迷う素振りを見せた。
「いや、最近学校休んでますよ。無断欠席。連絡も取れないって」
「……は?」
頭の中が真っ白になったわ。悠貴が行方不明?音信不通?
「ねぇ、それ、どういう事?」
「分かりません。悠貴さんとはいつも仲良くさせてもらっているのですが、メールや電話を入れても、返事がないです。“おかけになった電話は、現在使われておりません”……」
どうせどこかで喧嘩してるのかしら、とか考えなくもなかった。けど、
「いつ頃から?」
「もう一週間」
一週間なんて聞いて、母親が落ち着いていられるなんてありえない。
「とりあえず、悠貴と仲良くしてる子を集めてきてちょうだい。女の子は嘘をつくからいらないわ。……あなた、名前は?」
「花宮です。花宮真。悠貴さんと仲の良い男子ですね?」
「ええ。急いでちょうだい」
警察には届けないつもりだった。悠貴の今までの素行が知れたら、協力してくれるどころか罰を与えるかもしれない。早る気持ちを抑えつつ、花宮君の帰りを待った。
×××
「見てよ、ちょっとさ」
「何で学校でAVなんか」
「いいから見て。ヤベぇんだって、マジで」
悠貴とつるんでる奴って言われればバスケ部の奴しか思い付かないから呼びに来たんだが、原に強制的にAVを見させられている。部屋?じめじめしてそうな部屋の真ん中でレイプされている女。誘拐してきたという設定らしいが、どうせ女優だろう、と腹を括っていたのだが。
「この後、仰向けの正常位になるのさ。顔、見てみ?モザイクかかってないから」
上に乗っていたおっさんが、女をひっくり返した。中途半端に仰向けになった女は、俯瞰視点で撮影しているカメラに顔を向けた。
「……悠貴?」
「ね?ヤバいっしょ。今度これ、DVDレンタル始まるらしいよ」
けろっとしている原を引っ張って、悠貴の母さんの所へ向かった。知らせなければ。あなたの娘さんは今、レイプされていますって?無理だろそんなの!ああ、くそ。どうすりゃいいんだ!

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