泥沼の脆い花

□通い、
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教室の扉を開ける。全員の目が一斉にこちらを向くのを無視して、扉近くの席に鞄を放る。
何週間ぶりだろうか。
「悠貴」
「……何でいんの。クラス違うじゃん」
「いんだよ、別に。自習だろ、次。付き合え」
「何週間ぶりかに学校来て、初っ端からサボリとか」
脱いだブレザーを椅子にかける。セーターのポケットにはスマホとウォークマン。スマホで音楽は聞かない派だ。
「いいよ、どこ行くの」
「屋上……、は寒いから、図書準備室」
「入れんの」
「俺、図書委員長だから」
「ああ、そう」
朝の学活がない学校で良かった。堂々とサボれる。一限の始まりを告げるチャイムと同時に、図書準備室に入った。
「こんなとこ、あったんだ」
「この奥にもう一部屋あんだけど、そっちはもう先生も知らないから」
「じゃあ、そっち」
「ああ」
ギギギと音の鳴る建て付けの悪いドアを開ける。大量の段ボール箱と、小さな二人掛けのソファーが一つ。山積みになった本、壁一面の本棚。埃っぽさはない。花宮が掃除してんのかな。
「二階だし、外から見えねぇから、ここ」
「落ち着くわぁ……」
「座れよ、まあ」
革ソファーはひんやりと冷たい。触れた腿がびくりと震える。慣れてくると、今度はぺたぺたとひっつく革の感触が気になった。
「凄い、何これ」
改めて、目の前の本の山をまじまじと見つめる。
「もういらねぇ本とかは殆どここに置きっぱなしらしくてさ、暇してたらよく読んでる」
「面白い?」
「面白くなかったら読むかよ、阿呆」
「お薦めは?」
「阿呆のお前に分かる本はねぇよ」
「えー?」
イヤホンを取り出し、耳に挿す。花宮にもう片方を差し出すと、花宮は右耳に付けた。花宮が聞きそうな曲なんて、ロックばっかりのウォークマンには入ってない。ラジオを流す。
花宮が本を一冊、手に取った。栞が挟まっている。
「読みかけ?」
「まだ途中」
邪魔すんな、と花宮は手をひらひら振った。邪魔すんなと言われて、しない手はない。肩に顎を乗せてやる。
「邪魔」
「邪魔じゃない」
「邪魔だっつの」
「邪魔じゃない」
腕を組んで、本を持つ右手をいじる。花宮が本を左手に持ち替えたので、これ幸いと手を繋ぐ。しばらく会えなかったんだ。少しくらい甘えたっていいじゃないか。
「はーなーみーや」
「……お前さ」
「ん?」
花宮は栞を挟まずに本を閉じた。ページ覚えてるのかな、と思っていると、伸ばされた左手に後頭部を掴まれ、一瞬で唇を奪われた。
「ん、……っ」
それも、深いやつ。生温い花宮の舌が歯列をなぞったかと思えば、舌の裏をぐりぐりと押したりする。ちょいちょいこいつはこういう事に慣れてたりする。
「当たってた、胸」
「……は?」
「久しく会えなくて二人っきりだ。察しろ」
「ちょ、ま、は!?ここで!?」
「大丈夫だ、図書室は今日、閉館してるはずだから」
「……付けてよ」
「分かってるっつの」
ゆっくりと花宮は、私をソファーに押し倒す。優しかったのはそこまでで、その後のことはあまり覚えてない。やがてスカートの中に入ってきた手は、花宮にしては温かかったような、そんな記憶がある。
×××
三年生になるまでは続けたいです^^

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