おとなりさん。

□2杯目
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「真太郎」
大学は東京の大学に通っている。親元を離れて  自宅は東京にあるが  マンションを借りて一人暮らし。日本の首都の名前をもじった大学ほど頭は良くないけど、日本そのものをもじった大学よりは偏差値が高い。高校時代にバスケを通じて知り合った先輩も数多く通うのだが、まさかお隣にいるとは思わなかった。
「宮地さんというのは、どんな人かい?」
「宮地さん……、か」
懐かしいな、と真太郎は空を見上げた。真太郎も同じ大学に通っている。
「口の悪い、物騒な先輩だな」
「そうか」
「ただ……」と真太郎は続けた。「自他共に厳しく、同時に後輩思いだった。本当に良い先輩だったのだよ」
「……そうか」
そんな真太郎の大切な先輩は、僕と僕の仲間達に負かされて引退したのだ。
「一年の準決勝の時、諦めた俺を奮い立たせてくれたのは宮地さんだ。尊敬していたし、今でも……」
「おーおー、言うねぇ」
「な!?」
僕と真太郎の間に、突然誰かが割り込んできた。その人物は真太郎の肩を組み、頭をばしばしと叩いた。
「宮地さん!?」
「久しぶりだな、緑間」
「俺もいるぜー」
高身長な宮地さんの後ろで、僕と同じ位の背丈の高尾がぴょこぴょこと跳ねる。僕と目が合うと高尾は「やっほー、赤司」とフレンドリーに挨拶をした。
「なんだ、赤司もいんのか」
「小さくて見えなかったとか、言わないで下さいよ」
「おう、それそれ」
「……何の用ですか」
「飲もうぜ!」
「は?」
宮地さんに肩を組まれ、高尾に腹筋をつつかれていた真太郎が、変な声を上げた。
「まだ俺は19ですが」
「固ぇな、お前。付き合えよー」
「赤司も飲む?てか飲も?」
中学生の教科書には、“飲まないという意志を持って断ろう”と書かれていた記憶があるが、
「ああ、僕は行こうかな。真太郎は行かないのか?」
「……仕方ないから付き合ってやるのだよ」
大学生なんてこんなものである。
×××
杏奈さんはご在宅だった。少しびっくりした様子だったけど、笑ってお酒を用意してくれた。
「姉貴、飲む?」宮地さんの問いかけに、杏奈さんはイエスと答えた。「久しぶりにちょっと飲もうかな」
杏奈さんが入れてくれた梅酒ロックにグレープフルーツを混ぜる。真太郎は案の定初酒だったみたいで、少し飲んで吐いて寝た。高尾はそれはそれはハイテンションで、宮地さんと僕に絡みまくっている。
「赤司、それ美味い?」
「割と」
「まじ?俺もやるやる。杏奈さん、半グレープあります?」
「あるよー」
杏奈さんもだいぶ飲んでいる。未成年の僕でもお酒なんてすぐになれたけど、22だという杏奈さんは弱いみたいで。半グレープを取りに行こうと立ち上がった途端に、ふらっと倒れかけた。
「っ、杏奈さん」
「……ごめん」
「ふらふらじゃないですか。半グレープは僕が取ってきますから」
高尾は気にすることなく宮地さんとくっちゃべっている。冷蔵庫から取り出したグレープフルーツとそこにあったレモンの果汁を、僕は高尾が飲んでいる缶ビールに流し込んだ。
「赤司君意地悪いね」
「杏奈さんに無理させた罰です」
「あはは」
やがて高尾がビールに口を付けるまで八秒。じわじわ効いてきた不味さに宮地さんの顔にビールを噴くまで十二秒。宮地さんがにこやかに高尾を廊下に連れ出すまで二十八秒。

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