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□赤司君にチョコを渡したかった
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廊下に立ち並ぶロッカーの中身を一瞥し、踵を返して教室に入る。
相変わらずモテモテのあいつにちょっとだけ惚れてた。絶対言う機会なかったから、この期に及んで砕け散ろうと思ったんだけどな。それすら出来ないとか、あいつどんだけ神々しいの。教室の窓から中庭が見える。
「……あっ」
また、もらってる。どんだけモテんの、あいつ。
右手に持った、ピンク色のラッピング袋をじっと見つめる。窓の外の女の子は、高級そうな紙袋を下げていた。
「……所詮平凡ですよーだ」
おもむろに袋を閉じていたリボンをほどき、中のチョコを取り出す。珍しく夜遅くまで頑張った手作りトリュフ。ココアパウダーが散る。
ぽくっと、口紅に含んだ。
「……美味しい」
二人は中庭から消えていた。どうせ渡さないのなら、捨てるより美味しくいただこうじゃないか。
「ゴディバになんて負けるに決まってるだろうがー」
「何を叫んでるんだ」
「ほわっ!?」
窓際にいる私の後方から、声がした。それは先ほどまで中庭にいたはずの、
「赤司?」
「攻め気のないことをよく堂々と言えたもんだな」
「……軽い失恋中にそんなこと言わないでもらえます?」
「いや、失恋してないんじゃないかな。少なくともお前の場合は」
ゆっくりと近寄ってきた赤司は、私の右手で摘まんだトリュフをじっと見つめた。
「トリュフか」
「はい」
「お酒は入ってるのか」
「ラム酒がほんの少し……」
「そうか」
赤司はため息をついた。
「いただきます」
「はっ?」
ぽかんとする私にお構い無く、赤司は私の手首を掴むと、指ごと口に含んだ。
一瞬、訳が分からなかったけど、我に返って指を引っこ抜いた。
「美味かったよ」
「なっ……、馬鹿じゃないの!?」
「少なくとも僕は冷静だけど?」
「何それ。意味……、分かんない」
涎で濡れて光る指をセーターの裾で拭う。湿った指はふやけたままで、いくら擦っても柔らかいままだった。
指先がじんじんと熱い。
「僕にせっかく作ってくれたんだから、自分で食べるなんて馬鹿な事をするな」
「……はい」
「お返し、楽しみにしておくんだよ」
ばくばくと心臓を鳴らす私を置いて、赤司は教室の扉を開けた。

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