ミルキー×ウェイ

□vingt-six
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ウィンターカップ最終日。準決勝で敗れた昨日の敗戦ムードから一変、三位決定戦で勝利した秀徳は全国三位。喜び全開。みんな笑顔の中、一人だけ泣いてる人がいた。
「喜べ、馬鹿。泣くなよ」
昨日復縁したばっかりの宮地さんが、郁先輩の頭を笑いながら撫でている。仲直りしたかと思えば見せつけてくれるね。俺、ちょっと郁先輩タイプだったのに。勝ったのになんか悔しいから、二人の間に突っ込んでみる。
「せんぱーい!俺どうでした!?」
「高尾ちゃん……。すごかったよ、ほんと。格好良かった」
「まじっすか!惚れた!?」
「惚れはしない……」
「えー」
「私は、清志先輩だから」
郁先輩も郁先輩だよなー……。本人は無意識なんだろうけど、さらりと俺、傷ついたからね?
「決勝も、もうすぐ終わるみたいだな」
「残り6分っした、さっき」
「じゃあ、表彰式ももうすぐですね」
「……三位か」
宮地さんが、神妙な面持ちで天井を見上げる。
「来年は優勝しろよ」
「……!」
もし、今俺が三年だったら。三年生、最後のウィンターカップだったら。悔しいだろうか。優勝出来なかったら。例え三位決定戦で勝利し、勝ちでウィンターカップが終わっても。
たぶん、宮地さんはそうなんだと思う。
「……もちろんっすよ」
「分かってんならいい。約束しろよ」
「はい!」
宮地さんは笑った。いつものどす黒い笑顔ではなく、心からの爽やかな笑顔だった。
×××
表彰式が終わり、ベストファイブに選ばれた緑間を叩く。おめでとうって言ってやると、鼻をフンと鳴らして、言いにくそうに「……ありがとうございます」と言われた。ツンとデレのデレの方。緑間は珍しく笑顔を見せていた。高尾が緑間に飛びついてる。
「先輩、嬉しいですか」
「あ?……ああ」
「そう見えませんよ。もっと、ほら、笑って」
郁に頬をつままれ、悲鳴をあげた。以外と強かったのだ。
「笑って下さいよ、ほら」
「うー、はらへ」
「笑うまで離しません」
「やえろ、いはい」
「変な顔……!」
「わらうらぁ」
和やかな雰囲気の中、監督が来た。大坪の号令で、全員監督の元に集まる。鼻と頬が痛い。
「皆、お疲れ。緑間、おめでとさん」
「はい」
「三位か……。まあ、良しだな。98点」
お馴染み、監督の点数評価。98点か、今までの最高点。
「決勝に連れて行けなかったのは、俺の責任だ。残りの2点は、来年優勝したら自分に与える」
「……」
「本当によく頑張った」
監督は手を叩いた。釣られて、拍手が沸き起こる。全国二位の奴らより、三位の俺らは喜んでいるだろう。
「新キャプテンは……、そうだなぁ」
監督が告げた名前は、度重なる怪我で試合に出れなかった、それでも懸命に努力を続けてベンチ入りを果たした、二年生の名前だった。再び、拍手が起こる。
「三年生は今日で最後だな。まあ、いつでも来い。大坪、何かあるか」
「いや、ありません」
「……まあ、今後については心配するな。俺が何とかする。今よりもっと、強くする」
「はい」
「じゃ、三年生、お疲れ。拍手」
三度目の拍手を受け、なんだかこそばゆくなって、頭を掻いた。
「それと、マネージャーの郁の事だが」
自分で起こさせた拍手を遮るように、監督は言った。
「郁はベンチ入りこそしなかったが、皆知ってる通り、練習のサポートだったり、選手の個人データだったり、様々な事に貢献してきた。分かってるな」
ああ、分かってる。分かってます。俺が今まで、どれほど支えてもらったか。
「郁は三月、三年生の卒業と同時に転校が決まった。行き先は知らんが、少なくとも日本ではない」
高尾が俺を見た。
「ただし、部活には3月31日まで出てもらう。あまりこの事は気にしないでやれ。以上。おしまい。号令」
「気を付け、礼」
流れで礼はした。ただ、その後どうすればいいか分からなかった。呼吸は浅く、焦点の定まらない目はどこを向いていたのだろうか。
  郁が、日本から、いなくなる。

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