捧げもの

□陽菜様へ
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ご機嫌な様子で部屋に掃除機をかける息子に、母親が訝しげな顔をして訊ねる。


「由孝?どうしたの、急に掃除なんて…。笠松くんたち来るの?」

「今日はあいつらじゃない。」

「誰よ?クラスの友達?」

「俺の(未来の)彼女。」



買い物用のエコバッグを落とし、母親は呆然と目の前の息子を見つめる。
掃除を終えた森山は立ったままの彼女に気付くと、手をシッシッと振り払って言った。


「頼むから邪魔するなよ、母さん。」

「由孝!!あんた何で言わないの、そんな大事なこと!!
一生彼女ができないって母さん諦めてたのに、無駄になっちゃったじゃない!!」

「ひどくねっ!?ああ、もう…!買い物行ってこいよ!!」


グイグイと部屋から追い出すように、慌てふためく自分の母親の背を押す。
午後2時に(未来の)彼女が家に来るのだ。今は午後1時50分、早くしないと心の準備ができない。


「ああ…!!母さん、お化粧しなくちゃ!」

「何でしてないんだよ!?もういいから、早く行けって…!」





ピンポーン………





「…鉢合わせ、させたくなかったのに……。」

「はいはい、どなた?」


分かってるくせに…と呟く息子を尻目に、モニター越しに対応する母親。


『こんにちは、バスケ部マネージャーの黄瀬 (海常夢主)です。由孝センパイはいらっしゃいますか?』

「はいはい、ちょっと待っててねー!」


モニターを切った母親は息子の方を見て、可愛い子ね…!と笑顔を向けた。
だろ?と得意げな彼と共に玄関に行き、(海常夢主)を中へと招き入れる。



「ようこそ、(海常夢主)ちゃ…!」

「いらっしゃーい!由孝の母です!」


前にいた森山を横に押しのけて、母親が(海常夢主)に挨拶をする。
(海常夢主)も頭を下げて挨拶を交わし、良かったら…と手にしていたお菓子を差し出した。


「まあ、ありがとう!由孝がいつも迷惑かけてごめんね。
散らかってるけど上がってちょうだい。ささ、どうぞどうぞ!」

「すみません、お邪魔します…!」

「母さん、本当もう買い物行って…!」


赤い顔で母親を外に追いやり、(海常夢主)を中に入れる森山。
ごゆっくりと言われた彼女はもう1度会釈し、森山の部屋へと案内された。


「飲み物とお菓子持ってくるから、ちょっと待っててね!」

「ありがとうございます!」



弟を除けば初めての男性の部屋に、(海常夢主)は緊張してキョロキョロ見回す。
さっぱりした空間にベッドと机、大きな本棚。バスケ関連の本がたくさんあった。


「お待たせ。」


笑顔でトレーを持った森山が、部屋に戻ってきてテーブルを出す。
クッションを出して(海常夢主)を座らせると、ジュースを入れたコップを差し出した。


「ごめん、オレンジジュースしかなくて…。」

「ありがとうございます!私好きですよ、オレンジジュース。」


半分を飲んだ後でコップを置き、(海常夢主)はカバンからデータ表を取り出す。
今日の話は先日の練習試合を踏まえ、作戦の見直しをする、だった。


………名目上は。
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