捧げもの

□飛鳥様へ
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「よし、今日の自主練はここまで!」



最後のボールを投げてネットを揺らした笠松は、仲間に号令をかけて終了させた。
ドリンクとタオルを配っていく(海常夢主)と反対に、彼らは部室へと戻っていく。



「あー……今日も疲れたっス…。」

「ったく、だらしねえ…と言いたいが、さすがに今日はキツかったな。」


タオルを被って床に座り込む黄瀬に、笠松も半ば放心状態で相槌を打つ。
もうすぐ他校との練習試合を控えている海常は、さすがに監督の指導も熱が入っていた。


「…何見てるんだ、森山?」

「娯(ら)く施設の案内雑誌?も(り)山さん、遊びにいくんですか?」


ジッと雑誌を眺めている森山に、小堀と早川が不思議そうに訊ねる。


「いや…近くの水族館、リニューアルしたらしくてさ。行きてぇなって。」

「ああ、あそこのっスか?白イルカが仲間入りしたって、話題になってるっスよね!」


デートスポットにも最適らしいと話す黄瀬に、森山がピクリと反応する。
何を考えているか分かった笠松は、はあ…と大きくため息を吐いた。



「失礼します。」


部室のドアを叩き、全員が着替えたことを確認して入ってきた(海常夢主)。
その手は部員たちのユニフォームや、使い終わったタオルの入ったカゴを抱いている。


「監督から伝言です。そろそろ体育館を閉めろと。」

「お、そうか…よし、出るぞお前ら!」

「(海常夢主)ちゃん…!」

「はい?」


重いカゴを持って立ち去ろうとしたマネージャーを、手伝いつつも慌てて引き止める森山。



「明日さ……俺と水族館、行かない?」

「いいですよ?」

「だよね……え、本当に?」

『早っ!?』



明日は部活が久々の休み。森山から唐突に提案されても、(海常夢主)は嫌な顔をせず頷いた。

























「お土産はイルカのクッキーがいいっス!」

「はいはい。」

「あ、あと…ショーの動画も!」

「はいはい。」

「スナメリのバブルリングも、写真撮って送ってほし…!」

「はいはい。」

「聞いてないでしょ、(海常夢主)っち!?」

「はいはい。」

「ほらぁ!!!」


着替えて荷物の準備をする片割れに、黄瀬は纏わりついて頼み事をしている。
面倒になったのか適当な返事をする(海常夢主)は、カバンを持って玄関のドアを開けた。


「いい子にしててよ?」

「俺をいくつだと思ってるんスか!?(海常夢主)っちと同じ年じゃないっスか!」

「はいはい、行ってきます。」


小さく笑いながら挨拶する彼女に、黄瀬も満面の笑みで行ってらっしゃいと返した。
待ち合わせは駅前広場。到着して辺りを見回すと、(海常夢主)ちゃんと自分を呼ぶ声がする。


「あ、森山センパイ!すみません、お待たせしました…!」

「俺も今来たところだから大丈夫!…さて、行こうか…お姫様?」



失敗した。我ながらクサい。ナンパならともかく、本気で好きな彼女に言ってしまうとは。
赤く染まった顔を逸らしながら、チラリと(海常夢主)の反応を窺う森山。笑われていないだろうか?


「……え、あ…え…!?」

「!?…ご、ごめん!忘れてくれていいから…!!」


その顔は反則だろ…と呟いた森山の声は、真っ赤な(海常夢主)に届いていなかった。
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