陽泉(長編)

□どういう意味アルか、それ?
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まだまだ肌寒い秋田県のある駅前に、よく似た兄妹が立っている。
中国人なのだろう。互いに中国語で話しながら、2人はとある学校へと向かっていた。



『まずは陽泉高校に行って、校長とバスケ部の監督に挨拶するぞ。』

『やっぱり日本語で話さないとダメだよね。お兄ちゃんはともかく、私は語学留学だし。』

『そうだな、練習しながら行こう。』


早足で陽泉高校に向かいながら、兄の劉偉と妹の劉名無しさんは日本語で話す。


「名無しさん、お前…小さい。私、首が痛い。」

「哥哥(グーグー)が大きい。お前が縮め。」

「“ お前 ”は女の言葉、違う。それ、男の言葉。」

「うるさい、黙れよト○ロ。」

「ああ、昨日テレビで放送していた…。」


そんなこんなで、喧嘩か世間話か分からない会話をしていると、陽泉高校が見えてきた。
広い廊下を歩いて何とか職員室に到着すると、劉偉がノックしてドアを開ける。



「転校生の劉偉と劉名無しさんです。
校長先生とバスケ部の監督の先生に、挨拶に来ました。」


頭のいい劉名無しさんの方が日本語が上手いため、劉偉は渋々と彼女に挨拶を任せる。
応対した校長は男子バスケ部の監督、荒木 雅子を呼び出した。



「えー、監督の荒木 雅子先生だ。担当教科は体育だよ。」

「お前たちが留学生だな。私が監督だ。
劉偉はバスケ部の選手となってもらうが…妹、マネージャーしないか?」

「マネージャー?」


聞き返した劉名無しさんに、監督はそうだと頷く。


「実は今年、キセキの世代の1人である紫原 敦を獲得した。
部員も多くなって手が回らんし、ぜひ頼みたいのだが。」

「名無しさん、観察力と状況判断力がすごい。マネージャーやればいい。」


監督と劉偉の説得で、劉名無しさんは首を縦に振った。



「マネージャーやります。えっと……お願いします。」

「よろしくお願い致します。」

「あ、そうだった…。」

「ああ、よろしく。」



それじゃあ、体育館で練習しているからついて来いと言われ、2人は大人しく後に続く。
そこで劉偉が妹の方を向きながら、得意げな表情で言った。



「日本語の表現、覚えていた言葉が役立った。
名無しさん、言えていなかった。」

「……最初の挨拶、哥哥は全て私にさせた。」


だから私の勝ちと言う劉名無しさんに、兄の劉偉は負けず嫌いめ!と軽く頭を抑える。
懸命にその手を退けようとしていると、どうやら体育館に着いたらしい。


「よし、全員注目しろ!今日からこのバスケ部に入部する、劉偉と劉名無しさんだ。
中国からの留学生だが、お前たち全員で協力していけよ。」

『はいっ!!』


活気のある声で部員全員が返事すると、監督は今からゲームをすると言う。
新しいチームに向けてポジションとレギュラーを決めるため、彼らは張り切った様子でユニフォームを着始めた。



「……おい、紫原はどうした?」


監督に呼ばれた男子生徒は、困惑した表情を浮かべる。


「あいつ、今日はまだ体育館には来ていません。……恐らく、今日はもう休みかと。」

「ったく……まあいい、あいつはCだ。
他の4人を決めるぞ、早く並べ。」


彼女の言葉に選手は整列し、劉名無しさんは得点板を出してマネージャーの仕事を始めるのだった。
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