陽泉(長編)
□I・Hの残り出ないから
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合宿は生憎の雨だった。先日まで寒かったとはいえ、今は蒸し暑い状態が続いている。
小さな更衣室で紫原は、やる気のなさそうに手でパタパタと扇いでいた。
「面倒くさ…。何で雨の中練習なんてするの?」
「山の天気は変わりやすいんじゃ、仕方ないわい。」
「別に今ゴリちんに聞いてないし。」
「お前らワシのこといじめてそんなに楽しい!?」
「うるせえな、アゴリラ!!」
「ウホウホと騒がしいアル。」
全員から罵倒され落ち込んだ岡村を見て、紫原はあらら〜と言いつつお菓子を頬張る。
合宿先でも抜かりはないようで、バッグの中に大量に入っていた。
「胸焼けがしてくるアル……。」
「えー、劉ちん知らないの?お菓子は日本の正義なんだよ。」
「お菓子は日本の……。勉強になったアル。」
また1つ間違った知識を増やした劉偉を横目で見ながら、福井は行くぞと全員に声をかける。
体育館の隅の方では劉名無しさんがドリンクを作っており、粉を入れては降る……という作業を繰り返していた。
「名無しさんちん、雅子ちんは?」
「体育館の管理人のところで手続きしてるアル。」
「ふーん…。そういえば劉ちんが胸焼けするって。」
「無問題アル、放っておくヨロシ。」
「最悪アルな……。」
そんなほのぼのした時間を過ごしていると、監督が戻ってストレッチの指示を出す。
岡村の号令に合わせて、彼らは体の筋を伸ばしていった。
「……だー!!きっつ…!!」
「お疲れ様アル。」
走り込みやフットワークなど苦しい練習が終わり、ようやく昼休憩となった。
体育館の外にあるベンチに座り込み、スタメンたちは肩でゼエゼエと呼吸を繰り返す。
「はい、お弁当とドリンクアル。倒れないようしっかり食べるヨロシ。」
「うむ…すまんのお……。」
礼を言いながら劉名無しさんから受け取り、彼らはモソモソと食べ始める。
同じように弁当を食べながら彼女は、1つ朗報を伝えてやった。
「監督から伝言アル。今日の練習が終わったら、バーベキューしていいって…。」
『マジかよ!?』
その言葉に一気に元気になった彼らを見て、現金な人たちアル…と考える劉名無しさん。
この様子なら午後の練習も頑張れるだろうと、小さくホッと一安心していた。
「よっしゃ、バーベキューが待ってっからな!気合い入れてこーぜ!」
「肉食べ放題アルか?」
「うむ、いくらでも食え!」
「俺お菓子があればいいし。」
「ポテチトップスとまいう棒を買ってるアル。」
「名無しさんちん、気が利くー。」
弁当のゴミを袋に入れて体育館の中に戻る彼らに、劉名無しさんは無理して倒れないよう注意する。
その言葉を聞いた劉偉は切れ長の瞳を見開いて、ジッと妹の方を見つめていた。
「……何アルか、哥哥?」
「…マネージャーの仕事に慣れてきた妹を、温かく見守っているだけアル。」
「何それ、キモい。」
「変な日本語覚えんなアル!!」
悪態を吐きながらも笑顔の劉名無しさんに、劉偉も仕方ないと思い直すのだった。