頂きもの
□これには時間が掛かる
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私の左に座っている森山先輩は兄さんの方に体を向け、無言でしかめっ面をしている。
私の右に座っている兄さんは森山先輩の方に体を向け、真顔で静かに睨んでいる。
私はそんな2人に挟まれて身動きが取れないでいる。
「俺と名無しさんちゃんの関係を認めたんじゃなかったのか!」
「認めましたが付き合っていないのなら話は別です。」
「…2人共そろそろ辞めませんか?」
「名無しさんにも問題がありますよ。」
口を開けば矛先を私に向けてくる兄さんに、私は溜め息しか出なかった。
そもそもこんな状況になってしまったのは、遡る事1時間前。
「お邪魔します。」
「何も無い家ですが。」
前に2人で出掛けた時にまた2人でと誘われ約束したお出掛けは中止になり、私の家でゆっくり過ごす事になった。
本当に何も無いですし、前に来た時と対して変わらないですよと言っても
じっくり見てなかったし俺は名無しさんちゃんと2人で過ごせるなら何処でも言いよと言われ、分かりましたと頷くしか出来なかった。
「じっくりと言いましても、何処を見る気ですか?」
「…色々?」
何か変態みたいですねと笑いながら言うと、森山先輩は顔を赤らめながら何故か必死に謝ってきた。
「べべべべべ別に変な意味は無いよ!」
「分かってますよ。」
飲み物を持ってくるので先に部屋で待っていてくださいと言う名無しさんに、分かったと赤い顔の状態で返事をする森山だった。
「…改めて見ると綺麗な部屋だな。」
女の子の部屋にしてはシンプル過ぎると思う人も居るかもしれない程に、物は出ていないし片付けられている。
壁には写真が数枚コルク板に貼られているだけだった。
「…小さい頃の名無しさんちゃんと黒子?」
双子なんだから当たり前なんだろうけど本当にそっくりだ。
透き通るような肌の白さに見透かされそうな水色の瞳。ふにゃりと笑った2人の顔は可愛い。
別に黒子にはそんな意味深な事は無いけど可愛いと思う。
気付けばベッドに乗って写真に見入っていた。
「遊びに来ましたよ。」
「…え?」
「……………。」
「兄さん?」
そして冒頭に至る訳である。
「付き合っていない女性の部屋に上がりますか?」
「後々付き合う事になるんだから良いだろう!」
「普通ベッドに乗りますか?」
「だからそれは写真に見入っていて、気付いたら乗っていたんだよ!」
「森山さんの良い噂は聞いた事がありません。」
「…噂?」
黄瀬君に少し聞いたんですが、可愛い女性にはすぐに声を掛けるとか告白するとか
とりあえず見境無しに話し掛けるそうですねと真顔で言う黒子に、俺は叫びながら名無しさんちゃんの両耳を塞ぐ。
俺へのイメージが下がって嫌われたらどうするんだと意味を込めて睨むが、黒子は全く表情を変えなかった。
「そんな人に可愛い大事な妹は任せられません。」
「それは過去の話で、今は名無しさんちゃんしか見えてない。」
「いつ裏切るか分かりませんね。」
「裏切らない!」
耳を塞がれている名無しさんは、2人の言い合いを見ながら首を傾げる事しか出来なかった。
兄さんと森山先輩が仲良くなるのは、まだまだ先のようです。