イザ×キラ
□パピヨン-butterfly kisses-
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いつから、だっただろうか?
ざわついた艦内の中に、
昏く静かな宇宙(そら)の海に、
風そよぐ湖面の小波に、
木々の葉ずれの囁きの中に、
“彼”の姿を、
捜すようになったのは。
パピヨン
−Butterfly kisses−
――プラント――
首都アプリリウス市に聳える国立中央図書館。
柔らかな日差しが入り込むサンルームの左奥窓際。
クライン邸の庭によく似た居心地の良い空間は、キラのお気に入りの休息場所だった。
机に広げた本に添えられた己の腕を、見るともなしにぼんやりと眺める。
南の島オーブの強い日差しに照らされて健康的に焼けてはいたが、逞しい、とは、お世辞にも・・・言い難い。
口の端に自嘲の笑みを浮かべると、キラは目を伏せ小さく溜息をついた。
「・・・あ」
形のよい淡い色の唇が薄く開く。
―――――また、だ。
感覚ギリギリに触れるか触れないかの「何か」。
少し前から度々襲われるこの不思議な「何か」が、“視線”である事に気付いたのは、ほんの数日前。
いつもはこちらが気付くタイミングで、ふ、と外されてしまう視線。
だが、今日は常と違う・・・?
刺すような棘々としたそれではない。
侮蔑を込めたものでも、
淫靡な艶をはらんだものでもなく、
ただただ真っ直ぐに向けられるそれ。
伏せた面はそのままにチラリと目だけを動かしてみるが、視線の主の姿を見つける事は出来ない。
ならば・・・と、
気付いていないふうを装った動作でひとつ伸びをすると、キラは身体ごとゆっくりと振り返った。
視界の端を掠める、
―――銀色の残像。
・・・まさか、ね・・・?
毎日忙しくプラントと地球とを行き来しているであろう“彼”が、こんな所へ来るはずもない。
ましてや自分に興味を持って視線を向けることなど・・・
今頃どうしているかと考える事が多いせいで、きっと幻覚を見てしまったのだろう。
「もう・・・一度・・・・」
続きの言葉は声に出せないまま、キラは身じろぎもせず長い時間そこへ佇んでいた。