アス×キラ

□刹那の恋人
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人が永遠を願うのは

いつか訪れる別れを

知っているからだろうか





柔らかい温もりも 

甘い吐息も




生涯


忘れる事は無いだろう






我が刹那の恋人よ



今 “この時”が



想い出になったとしても






***





水に満ち、緑萌える美しい大地、地球を守るように金色に輝くのは、


―――月。







自由を尊ぶ方向性と利便性から、月面に暮らす人口はここ近年少しずつ増加していた。
その『月』の中でも3本の指に入る大都市、コペルニクスのはずれにその学校は在った。




―コペルニクス幼年学校―




生まれにくくなった第二世代コーディネーターから第一世代、地球から移住して来たナチュラルまで、ありとあらゆる種の子供達が集い生活を送る学び舎である。



4歳になると初等部への入学資格が与えられる。

それを経て中等部、高等部へと進むのだが、少子化が深刻な昨今では1学年1クラスかせいぜいが2クラス止まり。

クラス替えの経験をする事無く卒業して行く人間も珍しくは無かった。



ナチュラルの生徒達が18歳で卒業を迎えるのに対し、コーディネーターの子供達は14の年を迎えると卒業して成人と同じ扱いを受ける。

元の体の作りが違うナチュラルと共に学び、共に生活するのはそのくらいが限度なのもまた、事実だ。


14歳を過ぎたコーディネーターの生徒達はそれぞれの得意分野を活かす為、細かく枝分かれする専門技術学校へと巣立って行く事になる。





「…という訳で、諸君らの未来はその手の中に数限り無く存在しているのだ」



教壇では“ちょっと見ジョージ・グレンに似ている”(よく見るとそんなに似てはいない)担任教師が専門技術学校を選択する際の注意事項を熱く語っていた。


が、

ハッキリとした進路を提出するのはまだ半年以上も先という事もあり、クラスメイトの大半は耳を傾けようともしていなかった。


…もちろん、俺も。





窓から入る初秋の西日のキツさを気にする風でも無く、ココア色の髪の幼馴染は頬杖をついてぼんやりと窓の外に視線を向けていた。

その後ろ姿を随分と長い時間飽く事無く見詰めている自分は…やっぱり馬鹿なのだと思う。


入学した4歳の時から8年間テストが全教科満点だろうが、学年で1番優秀であると評価された者にしか与えられないフェイスバッジを授与されようが、

窓の外を眺めている彼の笑顔を見た時の方が、その何倍も…

嬉しいと

思えるのだから。




永遠に終わる事は無いのではと思われた担任教師の長い話もようやく終わり皆が帰り支度を始めても、彼のその視線はまだ窓の外に投げられていた。


「…キラ?」



様子を伺うように相手の名を呼んでみたが、その背中は微動だにしない。


「キラ?どこか……具合でも悪いのか?」


自分よりも少し薄い肩にそっと手を掛けると、視線に割り込むような形で後ろからキラの顔を覗き込んだ。


「えっ!?」

キラは弾かれたように顔を上げると、大きな紫水晶の瞳をようやくこちらにカチリと合わせた。


「HR、とっくに終わってるぞ?」

「っ…あぁ、うん…そうだね。ごめん、ぼーっとしてて…」


「別に謝る事じゃないけど…
大丈夫か?なんか…お前最近ヘンだぞ?」



元々ボーッとした所があるキラだが、ここ最近特にこう…アブなっかしいというか、見てられないというか、

“心此処に在らず”な時間が多いような気がする。


「そ…そんな事ないよ?!ホラ、元気元気。ちょっと睡眠不足なだけだよ」

「睡眠不足〜?」

「あ…」


言われてまじまじと見てみれば、確かに目が少し赤くなっている。


「キ〜ラ!
もしかして、ま〜たゲーム?おばさんに隠れて夜中こっそりやってるんじゃないだろうね?」

「っ違うよ…!」

「ホントに?」



このテの前科の多いキラなだけに、問い詰める口調が自然と鋭くなってしまうのは仕方の無い事だと言えよう。


「ちーがーうっ!ただちょっと」

「ちょっと?」


「…ボクだって、悩み事くらいあるんだよ」



キラは唇を尖らせてそう呟くと、ふいっと背中を向けてようやく帰り支度を始めた。



窓から入りこんでいた西日は高等部に並行して建っている中等部の校舎に遮られ、キラの一挙一動を柔らかく照らす。



「悩み事?キラがねぇ…」



コンピュータのキーボードを叩く時はまるで魔法でも掛かっているかのように速く動くその指が、たどたどしく筆記用具をまとめていく様を見ていると自然とアスランの口元が緩む。



 “触れたい”



胸に湧き上がる軽い衝動を理性で抑え込む事にも、もうすっかり慣れてしまっていた。



キラの傍にいたいのならば、この想いは絶対に気取られてはいけないのだ。




「――そうだキラ、帰りにうちに寄っていかないか?母上がキラに会いたがってるんだ。お前の好きなチョコチップの入ったクッキーを焼いて待ってるはずだよ」


「えっホント?!行く行く!」


(――キラは食べ物かゲームで釣るに限る。)


さっきまでの不機嫌顔はどこへやら、満面の笑みを浮かべるキラにつられてアスランも柔らかく笑んだ。



「…アスランくん」



ふいに呼ばれて視線を巡らせると、見覚えのあるクラスメイトの少女が2人並んでこちらを見ていた。

どちらも中途から編入して来た、プラント育ちの第二世代コーディネーターの御令嬢だ。



ハッキリ言って女子と話す事自体が苦手なアスランにとって、鬼門とも言える相手が2人…。


「何…?」


明らかにトーンの落ちた声で返され、言葉に詰まってしまった少女達を見やり、アスランは口元に自嘲気味な笑みを刷いた。

その笑みを良い方向に受け取ったのだろう、少女達の表情は目に見えて和らいだ。
 

「アスランくんは卒業後は何を専攻するかもう決めてるの?」

「もしかしてお父様の跡を継ぐ為にプラントに帰国したり、、、とか?」

「いや…」


アスランは横目でキラの支度がほぼ完了している事を確認すると、自分の荷物を肩へと掛けた。


「先の事はまだ決めて無いみたいだよ?ね、アスラン?」


キラが出した助け船に内心大きく舌打ちをしながらも、渋々と視線を五月蝿いご令嬢方へと向ける。

これ以上知らぬ振りをする訳にもいかない。



「…今の所はまだ先の事は決めていないんだ。行くぞ、キラ」

「えっ?ちょ…っちょっと待ってよアスラン…」



アスランは強引にキラの腕をひっ掴むと、席を囲むようにして立っていた少女達の脇をすり抜けるようにして教室を後にした。



―――居心地の悪い視線を、
背後に感じながら。





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