-Z.A.F.T. RED'S-

□姫のキスは誰のもの?
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―プラント宙域―


ザフト軍ヴェサリウス艦



夕食後の自由時間にチェスに興じるのが、
ここ最近のクルーゼ隊のプチブームとなっていた。


座席につき、真剣な顔で対峙しているのは、
隊のワンツートップであるアスランとイザーク。


キラ、ディアッカ、ニコル、ラスティの4人は、

2人を取り囲むようにしてゲームの展開を見守っていた。



「お、いい勝負じゃん」

とディアッカが覗き込めば、


「負けた方は罰ゲームとかどうでしょう?」

黒い笑いを口元に刻んでいるのは最年少のニコル。


「え〜?勝った方にご褒美のがよくない?」

紫玉の瞳をいたずらっぽく輝かせ、にこやかに皆の顔を見回すキラ。


「ご褒美って何よ?キラのチューとか?」

いひひっと歯を見せて笑うのは、ムードメーカーのラスティ。


プレイヤーと観戦者。
いずれもザフトのエースパイロットの証明である赤の軍服を纏っている。


「ちょっとラスティ!勝手に人を賞品にしないでくれる?」

キラは“賞品”に提示された唇を突き出して抗議の声を上げた。




「―――チェックメイト」


「なにぃ! アスラン貴様、渋々対戦に応じた癖に賞品と聞いた途端に必死だなっ」


「そんなんじゃないよ、
 たまたまタイミングがあっただけだろ?
 で?投了するの?しないの?」




「…くっそ〜〜〜〜〜〜〜〜」


「「「あ…」」」


止める間も無く、
もの凄い勢いでひっくり返されたチェス盤からバラバラと駒が乱れ飛び、
辺り一面は目を覆う惨状となった。



「まったく…ラスティがあんな事いいだすから…」


アスランは翡翠の瞳を曇らせながら、
慣れた手付きでひとつひとつ駒を拾い始める。

「悪かったって…
まさかイザークがあんなに荒れると思わなかったからさ…」


ラスティは鮮やかなオレンジ色の髪を煩そうにかき上げると、
アスランに倣って床に散らばる白と黒の駒へと手を伸ばした。


「オレ、しばらく部屋に戻れねぇじゃん!
 どーせ部屋でも暴れてるんだろうし…。

 毎回片付ける身にもなって欲しいぜ〜」
 
同室者はおそらく枕を片手に荒れ狂っているであろう。
ディアッカには惨状が容易に想像できた。


「キラが絡むと瞬間湯沸かし器ですよね、最近のイザーク」

若草色の柔らかそうな髪を揺らし、
ニコルは黒のビショップを摘みあげる。



「あとは…っと」


アスランは辺りをキョロキョロ見回すと、テーブルの下へと潜った。

「あったあった、白のナイト…っと…」

目的の駒を拾おうと伸ばした手に、
ひとまわり小さな手がそっと重なる。


―――え?



顔を上げた瞬間、
淡いピンク色の唇が己のそれに触れた。


「賞品授与完了…なんちゃって!」

「キラ…?」

「しーっ」


細い人差し指を唇の前へ立てると、
キラはアメシストの瞳を茶目っ気たっぷりに輝かせた。


「みんなには内緒だよ?」



アスランはその場に座り込んだまま、
軽やかに遠ざかる足音をただ聞いていた。




◆END◆
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