-Z.A.F.T. RED'S-

□最強伝説
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―――ザフト艦 ヴェサリウス―――


夕食時刻を回ったばかりの食堂は、
まだ人もまばらで狙い目だ。
目的のメニューが売り切れで悔しい思いをする事もない。

若草色のクセ毛をふわふわと揺らし、
ニコルは食堂の扉をくぐった。



トレイを手に、受注口に並ぶ栗色の髪が目に飛び込んで来る。

早起きは三文の得、早飯は…



めちゃめちゃ得!


キラの後ろに並ぶのは僕だ・・・!


ニコルは素早い足さばきでターゲットの背後を確保した。

「キラ!どうしたんですか今日は随分と早いんですね」

「うん、今日は非番だったんだ。
ゲームに夢中になってたら昼食の支給時間が終わっちゃってて…
結局お昼ヌキ!もうペッコペコだよぉ〜」


キラは紫玉の眸を潤ませて腹部をさすった。


まるでウサギが耳をたらすかのような愛くるしい仕草に、
ニコルの口元は思わず笑みの形を刻む。


「あ、ニコル…なんだか嬉しそうじゃない?ひどいや!」

「いえ、そんな事は…
ただ…貴方は本当に可愛らしいなぁと思って。
そうか…今日は…お休みだったんですね……」


ニコルは何かを考えるように飴色の双眸を軽く伏せた。


ちっ、チャンスだったのに
僕とした事がシフト表の休日チェックを見逃すなんて…!


「ニコル?どうかした?」


「いえ、何でもありません。
せっかくですから一緒に夕食をとりませんか?」

「もちろん!そのつもりだよ」

「良かった。
A定食がエビフライとハンバーグ、
B定食が唐揚げとチャーハン…か、

キラはどっちにします?」

「どっちも!」


「え?そんなに?」

「さすがにそれは食べきれないか…うーんでもでも…」

「それなら僕がA定食にするんで、
キラはB定食にして下さい。
分けっこしましょうよ」


「マジで!?よっしゃあ〜
おばちゃん、ライス大盛りねっ!
ニコル…お前ってイイヤツ〜〜!」


ぐわしっ、と音が聞こえそうなキラからの抱擁に、
ニコルは背中に手をまわして抱き留めた。


ふふふふふ。


役得…万歳!







「そういえば…
キラがクルーゼ隊に入ったのって4月…でしたっけ?」


ニコルはエビフライをつつきながら
向かいに座るキラを見上げた。


「えっと…確か辞令にあった日付は4月15日だった…かな?」


「そうか…あれからもう2ヶ月も経つんですね」

「え?そんなに経つ?!」

鳥の唐揚げを丸ごと1個口の中へ放り込むと、
キラは幸せそうに目を細めて噛み締める。


「あの時はびっくりしましたよ。
真面目・実直・堅物を絵に描いたアスランが
帰投命令を無視したかと思ったら、
フェイズシフトダウンしたストライクごとキラを連れ帰って来て!」

「あー…
あのイージスのカニバサミMA形態さ、
なんとかならないのかね。
結構屈辱的なポーズだったんだよ?
放してって頼んでも、アスランは僕の言う事なんかちっとも聞いてくれないし」

ぷうっと頬を膨らませる姿からは、
かつて自分達を手こずらせた連合軍のエースパイロットだったなんて

…到底想像もつかない。


「そのおかげでこうして僕はキラに会えた。アスランには感謝してます」


まぁ…そうなんだけどさ、
なーんて唇を尖らせちゃう仕草も食べちゃいたいくらい鬼可愛い!



「まぁまぁ、エビフライでも食べて機嫌直して下さい。

はい、あーん」


はいっ、と満面の笑みで差し出されたそれを
キラが条件反射でパクリとくわえようとした瞬間、

エビフライは忽然と姿を消した。


「ぬぅわぁ〜にが、あーんだ!」


頭上から降ってきた声に驚いて顔を上げると、
アイスブルーの瞳を挑戦的に燃やした同僚が
エビフライの刺さったフォークを手に憤然と2人を見下ろしていた。

「「イザーク?!」」


「ニコル、貴様は誰の許しを得てキラにあーんとかしようとしている!」


ちっ、いいところで面倒臭いのが来たな。


「イザーク、ここ空いてますよ?どうぞ」


ニコルは内心で毒づくと、
にっこりと笑って自分の隣のイスを勧めた。


…素直に腰を下ろす辺り、アスランと違って扱いやすい。

これがアスランだったら食堂を一周してでもキラの隣に座るに違いないのだ。



「よし、キラ、俺様があーんをしてやろう。ほら、あーんだ♪」


「そんなにされたら逆に恥ずかしくて食べづらいよ〜」

「…イザーク、いい加減僕のフォーク返してくれませんか?」



やれやれ…


「いい加減にしろお前ら!」


またも頭上から落とされた声に、3人は反射的に顔を上げる。



「「「アスラン……」」」


うわ〜、
いちばん始末に負えない馬鹿が来た。


―――案の定、
キラの隣に強引に椅子を引っ張って来て
無理やり座ろうとしてるよ…


「キラにあーんしていいのは俺だけだ!」


「貴様こそたわけた事を言うな!誰がそんな事を決めたんだ!」


「俺だ!」


熱くなったイザークとアスランは
椅子を蹴倒して立ち上がった。


アスランはフォークを握ったイザークの手首を強引に引き寄せると、
刺さっていたエビフライにガブリと食らいついた。


「ふざけるなぁぁぁ…ってか貴様が食うな!!」


カシャーン!


銀色の残像を描き、
乾いた音を立ててフォークは床へと落ちた。


「……いい加減にして2人とも。

イザーク、アスラン、食堂では静かに。



―――常識、だよね?」



キラのオーラが冷え冷えと変わったのを感じ取った2人は、
借りてきた猫のように小さくなると、
しおしおと椅子を戻してちんまり腰を下ろした。


「…その…大人気ない真似をした…な…うむ」


「…ああ…そうだな…すまなかった」


普段の凛々しい(偉そうな)姿からはもはや別人な2人、である。


猛獣2頭を瞬時に黙らせるなんて、
やっぱりキラは最強だ。

ふ。


どんなに倍率高くても、僕は簡単には諦めませんよ。



年長者2人が必死でキラの機嫌をとる姿を横目に、
ニコルはひっそりと黒い笑みを浮かべるのであった・・・。



◆END◆

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