-Z.A.F.T. RED'S-

□カレイドスコープ
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「―――あれっ?イザーク?
今日の深夜勤ってディアッカじゃなかった?」


管制のシートに身体を預けたまま、キラはぴょこんと顔を上げて辺りを見回す。


「あの馬鹿なら食いすぎでダウンしている!」


吐き捨てるように返すと、
イザークはキラの隣のシートに腰を下ろした。


「それで代わりに君が来たって訳?何だかんだ言っても面倒見いいんだよね」



「…ふんっ」






―――キラ・ヤマト。




こいつといるとどうも調子が狂う。




いけすかない碧の目の同僚、アスラン・ザラの親友で、元連合軍のエースパイロット。

こいつの愛機であるストライクに、俺は幾度も煮え湯を飲まされたはずなのに…





《初めまして。

あなたが…イザークさん?
キラ・ヤマトです。宜しく!》




初めて顔を合わせた時に向けられた屈託のない笑顔は、春の陽射しを思わせた。






***






ヴェサリウスは自動操舵に切り替わっており、ブリッジには他クルーの姿はない。

照明や空調も必要最小限に絞られている為、しんと静まり返ったフロアーは見知らぬ街のような表情を見せていた。




「A〜Dブロック異常なしです」

「全方位索敵。機影、熱源、ともに反応なし」


パネルを操作し、艦内外に異常はないか、空調は適切か、等々とそれぞれチェックしていく。


「―――あ…っ?」


「どうした!?」


「あ、うん…これ…」



イザークはキラの操るモニターを覗き込んだ。



「……MSの発進連動シークエンスプログラム…?これが…どうかしたか?」


「ここの部分なんだけどさ、数式をちょこっといじるだけで搭乗から発進まで1.7秒短縮されると思うんだよね」


「…そうなのか?」

情報処理は得意ではなかったイザークは、アイスブルーの瞳を眇めてまじまじとモニターを眺めた。

「えっと…ここを…こうして…」


キラの指先が驚くほどの速さでパネルを叩き始める。
大小様々にいくつもの画面を次々と起動し、左右の手を器用に使い分けて同時に複数箇所の入力作業を進めていく。



これが“ちょこっと”だと…?



普段ぽわーーーーっとしている姿からは想像もつかない。


歩けばコケる、
走ればぶつかる、
射撃はかすらず、
格闘はからっきし。

一体こいつのどこがコーディネーターなのだと常々思っていたが、こんなものを見せられたら…納得せざるをえない。





モニターに真っ直ぐに向けられたキラの紫玉の瞳に灯りが反射しては、万華鏡のように不思議に色を変え続ける。





「―――綺麗、だな」



「…え?」




カタカタと休む間もなく動き続けていたキラの指がはたと止まった。


「綺麗だと、そう言った」


「…ぼ…くが?」

「他に誰がいるんだ!今、ここに!」



「…あ…ありが…とう」



キラのあまりの狼狽ぶりに、イザークは思わず破顔した。



「―――くくっ…お前、耳まで真っ赤だぞ?」


「…笑っ…た!」

「ああ?!」

「初めて、だよ?僕と話してる時に君が笑顔をみせてくれたの」

「…そうだったか…?」

「そうだよ!だからずっと…嫌われてるんだと思ってた。その……傷の事も、あるし…」



イザークの右頬に走る緋色の傷痕は、かつてMS戦のおりにキラがつけたものであった。





「嫌っちゃいない……ただ…」


「ただ?」





「……どう接していいか、判らなかっただけだ」



「良かった、嫌われてた訳じゃなくて」



先程までモニターの乱反射で魅惑的に輝いていた瞳に、自分の姿が映り込む。


「…イザーク?どうかし…」



問い掛けの言葉を突然唇で塞がれ、紫玉の瞳は驚きに見開かれた。






「―――好きだ」








***







「―――ディアッカ急げ!」

「はいはい」


時間ギリギリに闘技室に飛び込んで来た遅刻常習犯の2人に、ニコルは小さく手を上げて合図を送る。



「2人とも遅いですよ」

「すまん、こいつが出掛けにトイレに籠もり始めてな」

「イザーク!お前余計な事を言うなって……あれっ?アスランは?」

見知った顔の不在に、ディアッカは菫色の視線をさまよわせた。

「クルーゼ隊長の指示で、新兵の指導に行ったみたいですよ?ね、キラ?」



「………」




「―――キラ?」

「えっ?!

…あ…うん、パイロット候補生にMS戦を教えるように頼まれたって言ってた」




キラの目はうっすらと充血し、笑顔もいつもの明るさを欠いている。



「キラ、あまり眠れていないのか?…もしかしてそれは…俺のせいか?」

イザークはアイスブルーの瞳を細めてキラを見つめた。
その真っ直ぐな視線は、何とも落ち着かない気持ちにさせる。



『全員揃ったようなので格闘訓練を行う。2人1組でペアを作って下さい』


「あ…!僕、あっちでラスティと組むね!」


栗色の髪をピョコピョコと揺らし、そそくさと逃げるように輪から離れて行く後ろ姿を見送ると、ニコルは隣に佇む銀の髪の同僚にチラリと視線を投げた。


「…なんかめちゃくちゃ避けられてませんか?イザーク?」




「お前、何やったんだよ」

「意味深な発言も気になります」


「―――いや…実は…」





「「ええぇえぇ?!
  キラに告白した?!」」



「お前ら!声が大きいっ!!」

「それで?キラはなんて?」




『僕もイザークの事は好きだよ』





「それって…まさか両想い……って事ですか?」

ニコルはまばたきするのも忘れ、飴色の双眸を見開いたままガクガクと膝を震わせて一点を見つめている。


「…いや、まだ続きがあってな…」




『イザークもアスランもニコルもディアッカもラスティも、みんな大好き!』





「なんだ。良かった…」


思わずポロリとニコルの口から本音が零れる。


「だから俺はあいつに言ってやったんだ。お前の好きと俺の好きは違う。俺の好きは…お前とベッドをともにしたい意味での好きだ!…ってな」


「それはまた…」

「随分と直球ですね」




「ふん!回りくどい口説き方なんぞアカデミーでは習ってないからな」



《そりゃそうだろ》



声に出さない突っ込みをありありと視線に絡めると、友人達は勇者を見上げた。


「で?これからどーすんの?」

「アスランが知ったら血の雨が降るんじゃないですか?」


「そんな事、俺が知るか!…あの時はもう黙ってられなかったんだよ。誰にも渡したくないって、

―――そう思った」



「お前…マジなんだな、キラの事」

「なら言わせて頂きますが、僕もキラが好きです。イザークが動くのなら、僕もこれからは攻撃に出ます」



「「―――ニコル?!」」


「同室者の僕のが少し有利かな?…大丈夫、鉄の理性で寝込みを襲ったりはしませんからご安心下さい」


「念の為に聞いておくが…ディアッカ、貴様はキラをどう思っている?まさか…」


「俺ぇ?!

…そりゃあキラはそこいらの女より可愛い顔してるとは思うけど、俺はキラに対して恋愛感情はないぜ?」


「そうか、なら安心だな。アスランは別枠として…ラスティはどうだろうか?」

「僕の推測だとラスティはアスラン狙いだと思いますよ!」




「―――やれやれ、この戦時下にザフトのエリート“赤服”が揃いも揃ってなぁにやってんだか…」



こうして、訓練そっちのけでキラ争奪戦の狼煙はあげられたのであった…。





◆END◆
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