-Z.A.F.T. RED'S-

□THE ONE
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大切なたったひとりを選んだ瞬間から世界は変わる。


望む、望まざるに関係なく、

“その時”は唐突に訪れる。



変わった世界が素晴らしいものだと限らないのに、


どうして…


心はひとりだけを選んでしまうのだろう。








*          *        




衣擦れの音に、微睡みに酔っていた意識がぼんやりと覚醒していく。




先程まで確かに腕の中に息づいていた温もりは、今はつれなく背を向けている。

どうやら身支度に夢中のようだ。



「…行くのか?」


「そろそろディアッカ戻って来るでしょ?タイムリミット、だよ」


衝動のままに細い腰を後ろから抱きしめて甘い香りを愉しむ。
艶やかな銀の髪が首筋をサラリと撫でる感触に、腕の中の身体は小さく震えた。



「…寂しい?」

見上げる紫玉に誘われるまま、瞼にそっと口付けを落とす。



「寂しいって言ったらベッドへ戻ってくれるのか?」

「イザークが泣いて頼むなら考えない事もないけど」

「ぬかせ!」


子供のようにじゃれ合いながら啄むようなキスを交わすと、イザークは閉じ込めていた腕から相手を解放した。


「…後悔、してるか?」


「してないよ」



「そうか…」


「―――イザーク…ありがとう」


「…ああ……お安い御用だ」



イザークは扉の向こうに消えていく愛しい横顔に呟くと、温もりの残る寝台へと再び潜り込んだ。





*          *         





深夜勤と日勤の交替時刻を迎えると、食堂は一気に賑やかさを増す。


寝ずに迎えた朝というのは、常のテンションとまるで違うから不思議だ。





「――ここ、いいか?」


不意に掛けられた声に顔を上げたキラとニコルの目に飛び込んできたのは、ポテトサラダやオムレツ、ウインナーが溢れんばかりに盛り付けられたトレイに見え隠れするオレンジ色の髪。


「ええ、どうぞ。ラスティ、今日は明け番ですか?」

「そ!やれやれ、やっとメシにありつけるぜ。そっちは?」

ラスティはニコルの隣に座ると同時に山盛りの食材へと手を伸ばした。


「僕らは午後からです。ね、キラ?」

「うん」

「ラスティ…なんか一晩で酷くやつれてませんか?」


よくぞ聞いてくれました!とばかりに、
ラスティはオムレツを頬張りながらも激しく頷く。

「ディアッカのやつ途中で爆睡しやがってさ!報告書の記入も機材チェックもオレ1人でやったんだぜ〜」

よよよ、、、と軍服の赤い袖口で涙を拭い、オーバーアクションで周囲の笑いを誘った。



「あー、早くアスランのやつ帰って来ないかなぁ〜」







ドクン。

ひときわ大きくキラの鼓動が跳ねた。




「そういえばアスラン、明朝にはこの艦に戻るみたいですよ?」

「マジか?!やった!これで鬼の連続深夜勤シフトから解放されるぜ〜」

ラスティは満面の笑みを顔中に描くと、ガッツポーズで喜びを噛み締めた。


「今回の本国帰投はさすがに長かったですね」

「…しっかしオレらまだ18だよ?いくら婚姻統制で適合SランクのDNAだからって、数回会っただけの相手と結婚決めるかねぇ」

「まぁ…アスランのお家は古くからある財閥ですし、跡継ぎ問題とか色々と大変なんでしょうけど」

「それを言ったらジュール家だって同じじゃねぇの?」





「――うちがどうしたって?」


頭上から降り注いだ聞き覚えのある声に、ラスティは視線を動かす事なく返す。


「イザーク、お前婚約者なんかいたっけ?」


「いなくて悪かったな!第一、この俺が、好きでもない相手とのほほんと結婚生活を送れると思うか?」

イザークはいつでもどこでも直球勝負。
曲がった事が大嫌いで常に全力疾走だ。


「まぁ無理だろうな…」

「確かに…」


諦めとも同情ともとれる色が友人達の声に滲む。


「ふん!跡継ぎが必要なら、俺は養子を迎えるさ」


優雅な仕草で腰を下ろしながら、隣に並ぶ栗色の髪を見やる。
そんなイザークの視線を追ったニコルは、スプーンを持ったまま微動だにしないルームメイトの様子にようやく気付いた。

「キラ…?食欲ないですね…?体調でも悪いんですか?」

「え?…あ、ううん、ちょっと眠くてボーッとしちゃって」



「…昨夜は寝かしてやれなくて悪かったな、次からは気をつけるとしよう」



「「―――えっ…?!」」

ニコルとラスティ、ふたつの硬い声がピタリと重なる。


「…イザークっ!」

「ふん、そんな可愛い顔で睨んだって誘ってるようにしか見えん。逆効果だぞ?」

「…っ!」


「イザーク?キラ…?ま…さか…?!」


ニコルは恐る恐る2人の表情を交互に伺い見た。

問い掛けに対し瞬時に顔を染めるキラの様子は、自分のいやな予感がほぼ的中している事を裏付けている。


「えぇ!?ナニナニ?もしかしてもしかするワケ?」



「…う、わっ!」

隣から突然強い力でグイッと腕をひかれ、キラは思いきりイザークの胸に倒れ込んだ。


「もぅ!イザーク何する……む…っ…!」

顔を上げて抗議の声を紡ごうとする唇にチュッと音を立てて口付けると、アイスブルーの瞳を煌かせて嫣然と微笑んだ。


「―――こういう事だ」




マジかよ〜っ!と仰け反るラスティと、完全にフリーズしてしまったニコルの飴色の双眸を順々に見据えると、イザークは腕の中でもがく柔らかい栗色を愛しげに眺め、くしゃりとかき混ぜた。





*          *         






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