〜頂き物〜(強奪厳禁)

□プレゼント
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「明日じゃないか!!」
「ん? 何、アスラン?」
 いきなりソファから立ち上がってしまった俺に、安楽椅子に深く腰掛けたままでキラが訝しげに問う。ああ全く。『明日』と云った時点で気づけよ。こんな大切な事!
「明日はキラとカガリの誕生日だろう? しかも、初めて双子揃って迎えられる誕生日なんじゃないのか?」
 停戦から数ヶ月。俺はアレックス・ディノと名を変えてオーブに暮らし、カガリの私的ボディ・ガードを務めている。今日は議会も休みで久々のオフだった。だからキラがラクスやミス・ラミアス達と暮らすマルキオ導師の孤児院を訪れ、戦線から離れて隠棲しているキラに停戦協議の近況報告に来ていたのだが、そこでカガリの名を口にした瞬間、明日がふたりの誕生日であると気付いたのだった。
「ああ、そうだね。でもカガリ忙しそうじゃない。一緒にお祝いなんてしてる場合じゃないよ。でもプレゼントぐらいしようかな? どう思う、アスラン?」
 どう思う? じゃないだろう、と思いながら、俺はソファに座りなおす。窓の外ではラクスが、ハロとトリィを連れて子供達と遊んでいた。彼女はキラに何を贈るのだろう?
「キラはカガリとプレゼント交換もいいだろうな。何か買いに行きたいならクルマ出すけど……俺はどうすればいい?」
「どうって?」
「だからっ! キラとカガリ、ふたり分だ。失念してたから何も用意出来てないんだ。キラ、何が欲しい?」
 俺が訊くと、キラはアームチェアに寄り掛かったまま天井を見上げて、うーん、と眉を顰めて少し唸った。
「僕もカガリも、多分同じものが欲しいと思うんだよね」
「同じもの? 双子だからか? そんな莫迦な」
「莫迦じゃないよ。本気できっと同じもの欲しいよ?」
 真顔になってキラは云う。キラとカガリに共通するもの? 何だ?
「ああ、そうだ! これをカガリへのプレゼントにすればいいんだ! で、僕も貰えば交換になるし。そうしよう」
 待てキラ。自己完結するな!! 俺に判る言葉で話してくれ。『これ』って何なんだ?
「まだ判らない? アスランって肝心な処でニブいよね」
 クスクスとさも可笑しそうに笑って、キラは云った。そしてアームチェアから立ち上がると、ソファに座る俺のジャケットを引っ張った。
「こ・れ」
 区切るように云って、微笑む。ジャケット……?
「違うよ。本当に、アスランって自分の事には鈍感だね」
「だって今これって……」
「もうっ!」
 呆れた顔で応えたキラは、ジャケットを掴む指を解いて、代わりに俺の首に腕を廻して抱きついて来た。
「僕とカガリが欲しいのはね、『これ』なんだよ? 今僕が抱えてる、これ」
「今抱えてるって──俺!?」
 思わず頓狂な声を上げてしまった。欲しいものが、俺?
「そう、アスラン。僕も、きっとカガリも、アスランが欲しいと思うんだ。だからこれ」
「俺を捕まえて『これ』とか云うなよ。俺は犬や猫じゃない!」
「うん、犬や猫より始末に負えない」
「煩いな……いつまでそうしてるつもりだ? 俺が動けない」
 俺にしがみ付いたままのキラの、ココア色の髪を撫でて俺は云った。サラサラした感触が心地いい。
「ねえアスラン? 今日オフだって云ったよね?」
「…………? だから今ここにいるんだが?」
「だったらさ」
 抱き着いていた腕を解いて、キラはアメジストの瞳で俺の目を覗き込んだ。
「今日のアスランを僕に頂戴? 明日カガリにプレゼントするから、僕は今日プレゼントにアスランを貰うの。駄目かな?」
「俺は物か!?」
 思わず頭を抱える。貰うとかプレゼントするとか、完全に物扱いじゃないか?
「違うよ」
 キラは云った。
「誕生日を君と過ごしたいんだ。大切な記念日だから、大好きな君と過ごしたいんだ。それが最高のプレゼントなんだよ? そう思わない?」
「……キラは今日でいいのか? フライングだろう?」
「僕は小さい時から君と一緒に誕生日お祝いして貰ったから、当日はカガリに譲よ。だから今、君を頂戴?」
「ふ……、敵わないな、キラには」
 降参、と俺は両手を上げる。全く、キラには敵わない。俺が欲しいだなんて。
「俺でいいなら、いくらでもあげるよ。今すぐでいいか?」
「うん! ねえ、全部頂戴ね?」
「ああ。全部あげる。でもラクスが……」
「『アスランが居る時は僕の部屋に入らないで』って、前に頼んであるから、大丈夫。だから最初はキスを頂戴?」
 ラクス公認と云うわけか。複雑な気もするが、気兼ねしなくていいなら、いくらでも抱いてあげる。俺の全てが欲しいのなら、泣いたって止めてやらないよ? 覚悟してる? キラ。
 そう、思いながら。
 キラの頭を抱き寄せて、唇を重ねた。

<了>
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