〜頂き物〜(強奪厳禁)

□サキュパスの宴
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最初に抱いた想いは、憧憬。
プラントではコーディネーター同士、遺伝子的相性を重視して、婚姻統制を強いている。そうでなければ妊娠に漕ぎ着けるのは困難であった。
受精にあたり、遺伝子操作が行われる新たな人類、コーディネーター。第二世代、第三世代と進むほどに難しくなる胎児の育成。だから遺伝子的相性の審査は困難なのだ。
(なら、俺は幸運なのだろうか)
アスラン・ザラはそう思った。将来を誓う縁を結ばれた女性は、名門クライン家の令嬢にしてプラントでは『歌姫』と呼ばれる美貌の少女、ラクス・クラインがその対象となったのだ。
初めて彼女の自宅を訪問した時、その純朴で邪気のない愛らしさに、この少女を妻に迎え入れる将来を約束されたことを恐れ多くすら思ったーー自分にはない清らかさが美しく眩しくて。だから、その存在は憧れを感じさせられた。彼女に相応しくありたいと。
けれど。
それはあまりにも綺麗過ぎて、汚すことは不可能ではないかと。情欲的な感情を持つことさえ罪のように思えるほど、純真な姿はアスランを戸惑わせた。
ーーだが。
アスランには、想いを寄せる人物が既に存在していた。まだ地球で暮らしていた当時に親しくしていたーーその相手は、同い年の少年、キラ・ヤマト。
お互いに、同性愛的嗜好があったのではなかった。何故なのか知らない。判らない。ただ、惹かれあったのだ。心も身体も魂の根源も欲望もなにもかも、互いの恋愛感情が交わってしまったのだ。
その時、二人はまだ性的意味合いも知らぬまま戯れのように触れ合った。傍にいたいと、近づきたいと、これ以上ない処まで深く深く、互いを求めて。
だからなのか。彼女に過剰な聖性を求めてしまったのは。だから触れるだけのキスしか……。


戦艦エターナル。
その艦長ラクスのプライベートルームに、アスランとキラ、そしてオーブ艦から訪問したカガリ・ユラ・アスハが、何気なく集合したのは全くの偶然だった。 現在のところ、連合・ザフト双方が一定の距離を維持したまま、戦いに展開する気配は皆無だ。両陣営共に疲弊、混乱するなかで、せめてもの戦士達の休憩とも云えた。
その中で敢えて戦闘の要が揃ったのは、別に今後の戦局を打ち合わせようというわけでもなく……もしかするとラクスの存在が彼らを引き寄せたのであろう。それぞれ好む飲み物を手に、なんとなく一緒にいるようなーー。
その場で最も身の置き所に苦悩したのもやはりアスランだった。かつての婚約者ラクス、そしてどちらとも選ぶことの出来ない関係を築いてしまった双子のキラとカガリ。
(……この状況は何かの拷問なのか? それとも俺の行いの悪さが招いた神罰か?)
などとアスランが考え込むのも仕方のないことと云えよう。
「ねぇ、皆さん?」
ふと。
ピンク色の長い髪を、今は結い上げずにふんわりと寛げた歌姫が言葉を紡いだ。
「折角お集まり頂いたのですし、お香を焚き染めてもよろしくて? 以前、珍しい貴重な品を頂戴しましたの。きっとお気に召すと思いますわ」
「お香? へえ、プラントにもいるんだな、そういうことが好きなタイプ」
カガリは物珍しげだ。キラもどうやら関心があるらしい面持ちをしている。
ただ、アスランは些かの懸念を抱いた。何故なら彼には香というものに嫌な記憶があったのだーーヴェサリウスに乗っていた当時のことだが。
「アスラン、どうかした? お香は嫌いなの?」
怪訝そうにキラが尋ねる。アスランは頭を振った。いくらなんでもあの香ではないだろう。考え過ぎに違いない。
「ではよろしくてね、アスラン?」
「ああ、構わないよ」
確認するラクスに首肯を返して、アスランはボトルのアイスコーヒーに口をつける。ラクスはコーン状に練った香に火を灯す。室内に薄い烟と甘い香り。それは所謂ホワイトムスクにも似た……。
「!?」
これは。
(そんな……馬鹿なこと……!!)
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