一角夢 現代パロディ

□キスして
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※恋人



それはいきなりのことだった。
二人で電車に乗っていた時、ふと女が俺の方を見上げて言った。

「一角さん……キスしてください…。」

車内はそこそこ人もいて、とてもそんなことができるような雰囲気でもなかった。

「どうしたんだよ、お前熱でもあんのか?」

普段の彼女にしてはいきなりすぎるし、なにより公共の場でそういう行為をすることを一角は嫌った。
それを分かっているはずの彼女がいきなりそんなことを言うはずがなかった。

女はその返答に顔をうつむかせた。

何も分かっていない、こうして二人でいるのは一体いつ振りのことだろうかと。
ずっと我慢していたのだ。

「……もういいです。」

ぷい、と身体も背けられ一角は首を傾げた。
この後はどこか、飯にでも行こうかと思っていたがそれどころではなさそうだ。
なぜか分からないが、機嫌を損ねてしまったようだ。

「おい。」

一角は女の身体を引き寄せ、耳元で囁いた。

「なんで怒ってるかは知らねーが、俺だって寂しかったんだ。少しの間だけ我慢してくれ。な?」

すると女はむっとしていた表情を崩し、微笑んだ。

「分かりました。」

怒ってはいないと、息を吐いた一角はふと前の座席に座っている学生のカップルに目を向けた。
彼らは車内で人目もはばからずに、堂々と身を寄せ合いキスをしているではないか。

よくあんなことができるな、と呆れていると女がそのカップルを見てため息を零したのを一角は見逃さなかった。

さっき、彼女がいきなりあんなことを言ったのはこれがしたかったのではないか?

一角自身、こういうことを人に見せ付けるようなことはしたくなかった。
それに、二人きりの時間を誰にも邪魔されたくなかった。
だが、彼女がしかったのはもっと別の……。


『お待たせしました、○○駅です。お降りのお客様は……。』


車内アナウンスが流れ、他の乗客は続々と席を立ち上がり、扉の前に立つ。

「電車降りたらどこいきますか?」

女は入り口に歩みを始めようとしたが一角は彼女の腕を引っ張り、壁と自分の間に閉じ込めた。

『扉が開きます、ご注意ください。』

多くの客が電車を降りていく中、二人は口付けを交わした。

扉が閉まる合図が鳴り、一角は女の腕を引きながら急いで電車を降りた。

一瞬の出来事で、半ば放心状態の彼女を見て一角はニヤリと笑った。

「したかったんだろ?」

「……不意打ちはずるいです。」

ぷい、と顔を背ける女だったが、顔を赤らめてほくそ笑む表情から嬉しかったに違いない。

「腹減ったし、飯食いに行くか!」

「はいっ!」





【キスして】...end.

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