下書き(一角夢)

□入隊篇【短編&小話】
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【導く炎】


日の傾いた夕方。
木々は既に真っ黒な影になった。

空は赤く染まり、雲だけが陽の光を反射して光っている。

相手の表情は暗くてよく分からない。
ただ、こちらの様子を伺ってじりじりと迫っている事は確かだ。

汗を滲ませながら、柄を握りしめる。

「へへっ。」

相手がニヤリと口元を引き上げた。

ざりっと草履が地面を蹴る音が聞こえ、力強い斬撃が襲い掛かってくる。
私はそれを避け、体を翻して蹴りを入れる。

相手は私の足を掴み、投げ飛ばした。

「っ…!!」

とてつもない馬鹿力に、木の幹に叩き付けられた。

カンカンカンっと小気味よく、長い柄で肩を叩いて音を立てる男。
この状況を愉しんでいる事には違いない。

鬼道を封じられ、斬魄刀の能力を引き出す為の訓練に私は苦戦した。

「斬魄刀を使わねぇと、力は引き出せねぇぞ。」

この男に言われなくても分かっている。
しかし力で勝てない以上、彼に斬術と体術のみで叶う術がない。

既に彼の攻撃を受け、体中傷だらけだ。
隊舎に戻ったら笑いものにされるに違いない。

「余計な事考えてる暇ねぇぞ。」

飛んできた刃に、私は即座に反応した。
彼の第二の始解。
鞭のようにしなる刃を弾きながら、彼の懐に入る。

喉元目指して刃を突き立てる。

「はっ!」

ゴッ!!っと鈍い音と共に頭に衝撃が伝わる。

頭突きを入れられ、私は男の足下に転がった。

「ったぁ…!」

余りの痛さに涙が滲む。
男は私の喉元に刃を突き付けた。

「…今日はここまでだな。」

「……。」

私は彼の刀を腕で払いのけ、膝を付いて起き上がる。袴に付いた砂埃を払いながら、拳を握りしめる。
昨日と全く変わらない状況に怒りが込み上げて来る。

「腹減ったな〜。さーて、晩飯食いに行くぞ。」

さっさと隊舎に戻る男の後ろ姿は、すぐに木の陰に消えた。

彼のすぐ後ろを歩く気になれず、私は暫くその場に留まることにした。

空を見上げると、真っ黒な木のシルエットの隙間から見える橙色の空がとても美しく見える。
しかし真っ黒な影が覆い被さり、とても邪魔に見えた。

「……。」

自身の斬魄刀の力を引き出すためにはひたすら、鍛錬を続けるしかない。
邪魔なものは一体何なのか…?

それが分からない。

この赤い空を見る度に、悩まされる。
いつか黒い影に覆い尽くされてしまうのではないだろうか…?


「おいっ!!何やってんだよ。」

突如として現実に引き戻される。
隊舎に戻った筈の男が、何故か目の前にいる。

「なんで…。」

「そりゃ、こっちの台詞だろうが!さっさと帰んぞ。」


斑目一角…出会った頃から厚かましいと思っていた。
本当に五月蠅くて、目障りで、鬱陶しい。


「なっ…!?は、放して!!」

「嫌だね!掴んどかねーと、お前付いて来ねぇだろうが。」

一角は私の手首を掴んだまま、歩き出す。

「痛い!!」

「るっせぇ!俺に勝ってから言え!!」

痕が残ってしまうのではないかと言う馬鹿力で握られる。

(この男、本当に嫌いだ。)

強引でまるで人の言う事を聞かない。
この男より強ければ、悩んだりなどしない。
いつも冷静な判断が下せるのに、一角を目の前にすると頭に血が昇り、苛立ちを感じる。
全ての元凶はこの男によるもの。
いつか絶対超えてみせる。それまで死ぬことは出来ない。

(今に見てろ…!!)



【導く炎】...end.
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