ゾンビだらけのこの街で
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不安になった花ちゃんさんが「秋山さん」と声をかけるも、その秋山さんがすぐに声を出すなと言いたそうに手を挙げた。
警戒しながら物音のした方へ近づく秋山さん。
何かうめき声が聞こえた。
それは秋山さんも同じだったようで、そのうめき声が聞こえた方……天井を見上げた。
そこには口が裂けていてそこから長い舌をのぞかせる、今まで見たことのないような何かがいた。目がない。気持ち悪い。
その何かが秋山さんの銃をはたき落す。
そのまま天井を伝って走って行った。
「そんなのあり?」
私も思いました。
その何かがこっちを向いてまた襲いかかってきた。
「名前ちゃん、花ちゃん!」
秋山さんは私と花ちゃんさんの肩を抱いて、横の広い部屋に転がり逃げた。
まずい、非常にまずいぞ。
「秋山さん、頑張れそうですか?」
「っていうか頑張ってください」
人型のゾンビはまだ我慢できた。って言うかもう見慣れた。なのになんだこの生き物は。鳥肌がスタンディングオベーション。
「そういう花ちゃんと名前ちゃんは?」
「秋山さんと一緒なら」
「真島さんより頼りないですけど、右に同じです」
「言ってくれるね、名前ちゃん。俺も頑張れそうだ」
さぁ、かかってこい、と意気込んだところに、銃声が耳に届いた。それを食らい、部屋の奥に逃げだす見慣れない何か。
「秋山さん! 無事か!?」
「あんたたちは?」
「もう忘れちまったのか?」
私は知らない。忘れたわけじゃないよ。
話を聞けば、秋山さんに銃を提供した人たちだそうだ。
「馬鹿言え。貸したもんわすれるようじゃ、金貸しなんかできねえよ」
「こいつを」
そう言って一人が投げたのは、さっきはたき落された拳銃だった。
それを受け取った秋山さんは、得体のしれない何かに向き合って数回飛び跳ねた。
「オーケー。こっからが本番よ。ここからは俺がなんとかする。あんた達は花ちゃんと名前ちゃんを頼む」
そんな秋山さんの言葉に、いい加減にブチ切れた。
「うっさいわボケぇ! 待ってるだけなのは嫌や、言うたやろがあ!!」
「……名前、ちゃん……?」
「……秋山さん、そっちの子はどうするんだ!?」
「花ちゃんさんだけ連れて行ってください!」
「名前ちゃん、これは映画やゲームじゃないんだよ」
「それくらいわかってます」
その言葉と共に拳銃を取り出して、得体のしれない何かに向けて構える。
「……わかった。無理しちゃだめだよ」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」
ここまで来て私の身を案じる秋山さんに、不敵な笑みをお見舞いしてやった。やる時はやるんだよ、正直言うと怖いけど。
「秋山さん! 名前ちゃん!!」
「こっちだ」
よし、花ちゃんさんはもう大丈夫だ。