ゾンビだらけのこの街で

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「そら、悪いことした。なかなか抜け出せんかってなぁ。携帯も電池切れてしもて。とりあえず離れてくれ。正面から抱き締めたいんやけど……かまへんか?」

「今は、駄目です……っ」


私の鼻をすする音が聞こえたのか、真島さんの小さな笑い声が聞こえた。


「泣き虫名前チャンはわしに会えて嬉しいんか?」

「泣き虫ちゃいます!!」


もう鼻水をつけてやろう、とか幼稚な意趣返しをしようと考えていると、そこに黒塗りの車が現れた。どっからどう見てもその筋の車だ。

真島さんは怪訝そうに声を漏らす。だって目の前に停まるんだもん。

スモークが張られた窓が開けられ、そこから顔をのぞかせたのは顔見知りだった。

やばい。関西にいて情報屋やってることは話したけど、郷龍会と繋がってたなんて一言も言ってない。


「東城会の……真島組長とお見受けします。お初にお目にかかります。自分、近江連合の二階堂いいます」

「知っとるで。西の極道で一番、そろばん弾くのがお上手いう評判や」


さすが真島さん。こんな時にそんなことを言うなんて。

私はなるべく二階堂さんに顔を見られない様に真島さんの背中に隠れる。

二階堂さんは鼻で笑った後、「そら光栄ですわ」と真島さんの厭味を受け流した。


「で? わしになんや用かいな?」

「引き止めといてなんですが……お急ぎになった方がええ思いまして」

「あん?」

「おたくらの大事なヒルズ、襲撃されてえらいことになっとるらしい。あそこ、東城会のお歴々も顔そろえてはるんちゃいまっか?」

「えらい早耳やなあ」

「ほな、またお目にかかりますわ。そん時は後ろの彼女さんもご一緒に」


やっぱりいけ好かない野郎だ。龍司さんがいてくれたおかげであまり嫌いにはならなかったけど。

ゆっくりと窓があがっていく。そしてすぐに車は発車した。

二階堂さんの隣に座ってた人、見ない顔だったな。こんな遠い神室町まで来て何を企んでるんだか。


「再会したばっかりで悪いけど、わし、ヒルズに行かな」


その先の言葉は予想できる。家に帰っとれ、とでも言うんだろう。お断りします。


「私も行きます」

「……この街の状況わかっとるんか?」

「わかってます。真島さんこそ、私に射撃で負けたこと覚えてます?」

「はっ、上等や。足手まといになるんやないで、名前」


その台詞を聞いて安心した。

よし、真島さん不足は解消できた。さっそくヒルズに向かおう!
 
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