ゾンビだらけのこの街で
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「そんな悠長なこと言ってられんでしょうが! すぐに報復の準備をするんです! 極道がナメられたら、それこそ……!」
ついに我慢できなくなった真島さんの手が安住さんに伸びる。
「よう動く舌やなあ。どないな作りになっとんねん?」
こういう真島さんは怖いと思ってしまう反面、かっこいいと思ってしまうのは惚れた欲目だろうか。
いや、真島さんは実際にかっこいい。
「もうすぐ夜やで。次のパーティーの話はまだ早すぎなんとちゃうか?」
真島さんの手から解放された安住さんは恨めしそうに真島さんを睨んだ。それを軽くスルーする真島さん。
こつこつ、と生存者に近づき、半ば吠えるようにこう言った。
「おう、お前ら! 死にとうなかったら店の棚、窓に寄せるんや! 女子供は奥! 食いもんと水は数かぞえて配給制や! さっさと動けや、ボケ!」
民間人にボケだなんて。何言ってるんですか真島さん。しかしそんな真島さんに突き動かされた人たちが次々に行動へ移す。
「……あの、私は何をすれば」
「アホか! お前はわしの隣じゃ」
「あっ、そうですか」
にやける口元に力を入れてなんとか平常心を保つよう試みる。
ショットガンを肩に担ぎ、窓の外を見下ろす真島さんに女の子が近づいてくる。
「おじさん、ありがと。あたしたちのこと助けに来てくれたんでしょ?」
真島さんは吃りながら「おう」と答えた。
まぁ、結果的にそうなっただけなんだけど。こんな真島さんはめったに見られないぞ。
「おじさん、正義の味方だね。お姉さんも!」
更に吃りまくって言葉が出なくなる真島さん。ついでに私も、真島さんと同じ心境である。
正義の味方だなんて、そんな大それたものじゃない。私たちには悪役の方がぴったりなのに。
「あたし、なんでもお手伝いするから」
女の子はそう告げて母のもとへ戻り、その母が私たちに頭を下げた。
民間人から頭を下げられることなんかまったくと言っていいほどない私たちは戸惑ってしまい、私はとりあえず軽く会釈しておいた。
「なんや、調子狂うのぉ」
「同じく。ま、正義の味方でよかったじゃないですか。ヒーローだとか白馬に乗った王子様だとか言われてれば爆笑する自信ありましたよ、私」
「それ、どないな意味や」
「……いえ、別に深い意味は」
さて、ちょっと六代目の所に行ってお喋りしようかな。と思ってその場を離れようとすれば、真島さんの腕が伸びてきて私の腕を掴んだ。
そして耳元でこう囁くんだ。
「この件が終わったら覚悟しときや? わし、ずっとヤってないから溜まる一方なんや」
最後に耳朶を噛んできやがった真島さんから素早く離れて六代目の所に避難した。
六代目曰く、真島さんは悪魔の笑みを浮かべていたそうな。