ゾンビだらけのこの街で
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「真島さん、こっちは準備OKです。オトリの人選、どうなりました?」
「あかんわ。どいつもこいつもビビリよって話にならん」
ヤクザの人ならともかく、一般人にゾンビのオトリになれって話の方が無理難題じゃなかろうか。
「たしかに……ゾンビのオトリなんて誰もやりたがらないでしょうからね……」
「しゃあないの。カップルの男役はわしがやるわ」
その言葉に私の頭の上には?が浮かんだ。女役がいないと、と言う六代目に、真島さんは非情な策を提案した。
「ん? 六代目……そういやお前けっこう髪が長いのお」
なんだこの流れは。
真島さんの考えることが六代目にもわかったのか少し身を引いた。
「……そや。そのまさかでいくしかないんとちゃうか?」
「えー、だったら私が女役やりますよ。六代目も真島さんも傍にいてくれるんでしょう?」
「せやけどなぁ、名前」
真島さんは何かを思いついたようで、私の耳朶に唇を寄せてきた。暑い吐息がかかり、少し擽ったい。
そこに悪魔の囁きが耳に届いた。
「六代目の女装姿、見てみたないか?」
ごめんなさい、六代目。私はどうやら悪魔には敵わないようです。
渋る六代目に「“俺にもできることがあれば何でも”とか言うとったなあ」と数分前の台詞を思い出させた。負ける六代目。
最後の一押しに、「腹くくったらどや? え?」と六代目を崖から突き落とした。
女装した六代目は髭面のままで、何とも言えない顔をしていた。声にならない笑い声を上げる私は、腹を抱えてその場で転げまわった。
酸素不足で息が切れる。
「おうおう! ばっちりやないかい! こりゃわしもテンションあがってまうわ!」
「く、くそ……なんで、こんな……!」
もはや、東城会にこの悪魔に勝てる人はいないのかもしれない。カムバック桐生さん。
せっかく治まってきた笑いも、真島さんの「大吾ちゃん!」という言葉にまた転げまわったのは別の話。
「六代目! せっかくですから写真撮りましょう!」
またしても渋る六代目を真島さんが言いくるめてくれた。携帯を真島さんに渡し、六代目と腕を組んでピースする私。
頭上から「屈辱だ……」なんて呟きが聞こえてきた。
形無しですね、六代目。