ゾンビだらけのこの街で
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来客者は次々に組員さんに噛みつき、ついに組長さんの番がやってきた。そこに龍司さんがガトリングガンをぶっぱなすも、すでに噛まれた後だった。
「おい」
「ああ、こいつは……気持ち……イイ……」
先に噛まれた組員も同じようなことを言っている。
いやだ。ゾンビに咬まれて気持ちいいだなんて。私は狂犬さんに咬まれた方が……いや、なんでもない。
龍司さんが改めて来客者と対峙する。
「お前は……林?」
帽子のせいで顔は見えなかったけど、帽子が吹っ飛んだ今はよく顔が見える。私も何度か会ったことがある。その時は龍司さんについて熱く語ったものだ。
その林さんがゾンビだなんて。
「甘美な……死を……」
「あ?」
「甘美な……死を……!」
林さんはそうつぶやいて窓へ向かって走り出した。龍司さんがまたもやガトリングガンをぶっぱなすも弾ははずれ、林さんは窓ガラスを叩き割って外へ逃げ出した。
そしてさっき噛まれたせいでゾンビになった組長さんたちが立ち上がる。
「警告は、無駄やったいうわけや。やるで名前。足引っ張んなや!」
「ナメないでいただきたいですね……っ」
ホルスターから拳銃を取り出し構えて見せれば「形だけは様になっとるやんけ」と言う龍司さんがいた。
何とかゾンビを倒すと、タイミングよく龍司さんの携帯に電話がかかってきた。
画面を覗き込むと、“二階堂”と表示されていた。龍司さんにスピーカにするように頼む。
『兄貴、ご無事で?』
「……いらん世話や」
「……余計なお世話や」
『名前もそこにおるんですか。フッフッ失礼しましたわ』
「ワレ……自分がなにしとるか分っとるんやろな?」
『……もちろんですわ。兄貴にも手伝ってもらお思うとるんです』
この期に及んで何を言ってるんだか。
「なら……顔見せてもらわなあかんな」
『ピンク通りにエイジアいうショーパブがあります。そこでお見せしたいもんが』
「お前もそこにおるんやろな?」
『当り前ですわ。お二人のお越しを首長ぉしてお待ちしとりますさかい。……ほな』
そこで電話は切れた。
「……聞いとったな?」
「ええ。道案内は任せてください」
小遣い欲しさで昔に短期間で働いていた、なんて絶対に言わない。