ゾンビだらけのこの街で
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私は今、真島さんの隣に座り、大きな液晶テレビでゾンビ映画を強制的に観させられていた。
いやだいやだと言ったのに、この男は私が怖がる姿を見て二倍楽しいらしい。
今も笑い声をあげている。
「ひぃっ……!!」
「うひゃひゃひゃ! たまらんのぉ」
目を閉じて耳を塞いでいても、隣の男が簡単にそうさせてはくれなかった。
真島さんが無理やり私の腕を退かし、耳元で「目ぇあけな……どないなるかわかるやろ?」と脅しまがいの言葉を囁いてくる。
さながら悪魔の囁きだと内心で思いながら、涙が溜まる眼をゆっくりあけた。
しかしタイミングが非常に悪く、画面いっぱいに映し出されたゾンビの顔に、私はまた目を強く瞑った。
「あ〜、目ぇ瞑ったらアカン言うたやろ? お仕置きやで、名前チャン?」
その言葉に、私は違う意味で悲鳴を上げた。
私の腕を掴んだまま、真島さんはソファに私を組み敷いた。
さっきの余韻が残ってるせいで涙目の私を見て、真島さんは舌なめずりをした。あぁ、こんなことになるなら素直に我慢して映画を見ていればよかった。と後悔する。
真島さんの顔が近づいてきて、何もかも諦めた私はそっと目を閉じた。
と同時に開かれる部屋の扉。
「親父ぃ!」
「……あぁ?」
行為を邪魔されて不機嫌になった真島さんが八つ当たりと言わんばかりに組員を睨みつける。
私と同じように小さな悲鳴を上げた組員が恐れながらも用件を真島さんに伝えた。
「あかん。仕事入ってもうたわ」
「どうぞどうぞ、私なんかお気になさらずに行ってらっしゃい」
「……」
どうやら引き留めて欲しかったらしい真島さんがむすっとしている。引き留めたところで「聞き分け悪い子は嫌いやで」と言うに決まってる。
前に引き留めて欲しそうにしていたのでしかたなーく引き留めたら、なんとまぁ嬉しそうな顔をしてそう言ったんだ。
私はそれを忘れてない。
自由になった体を起こし、リモコンを操作してDVDを取り出す。そうだ。口直しならぬ目直しと称して何か可愛いアニメでも見よう。
そう思い立ってDVDを物色しようとソファから立ち上がると、真島さんの手に頬を抓られた。
そしてさっき触れ合うことがなかった唇が触れ合う。
「覚悟しとき。今晩は寝かせへんで」
その言葉に、今度はささささと血の気が引いた。