ゾンビだらけのこの街で
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よいしょ、とマンホールから出てついた埃をぱっぱと払う。賽の河原を出た時から口の中にある飴ちゃんはついさっき消えてなくなった。
最近はシャワーばっかりだったからゆっくり湯船につかりたい。ゾンビたちのうめき声を聞きながらそんなことを考えていた。
「あーあ、この数日で私もふてぶてしくなったなぁ」
それが嬉しいことなのか悲しいことなのか。
真島さんみたいにこの状況を楽しむことができたら一番いいのに……なんて、不謹慎だな。さて、まずはどこに向かおうか。
当てもなくぶらぶらと。とりあえず西へ向かう。
隔離エリアは段々広がっているようで、真島さんと再会を果たした公園までもがついに隔離エリア内になっていた。
とりあえず、ちょっと戻ってタワー前に行こう。そこから南に行ける道があるかもしれない。
襲いかかってくるゾンビを撃退しながらタワー前に到着した。泰平通りを歩いていたその時、すさまじい爆音と地震とは言い難い地面の揺れを感じた。
音がした方へ顔を向けると、なんと戦車が動いていて壁を壊わしていたのである。
え、まさかゾンビじゃないよね。と思いながら恐る恐る戦車へ近づく。そして戦車から降りてきた人を見て目を瞠った。
「龍司、さん……?」
「あぁ? ……お前、名前か? こんなところで何しとるんや」
あぁ、本場の関西弁が聞けてちょっと嬉しい。……いやいやくだらないことを考えてる場合じゃない。
「それはこっちの台詞ですよ。なんで龍司さんが神室町に?」
「わしな、たこ焼き屋に弟子入りしたんや。……で、お前は急に姿消して連絡も寄越さへんとこんなところで物騒なもん持って、何しとるんや」
「あはは、自分の身は自分で守らないといけませんし、ね。街がこんな状態じゃ」
「なんや自分。えらい標準語が板に付いとるやないか」
「もう3年ですからね」
「……関西のもんが標準語使うわ、東京のもんはけったいな関西弁使うわ。この街はどないなっとるんや」
「見ての通りで……、ん? けったいな関西弁?」
私の記憶によると、そんな人はこの神室町には一人しかいない。最初は聞き慣れなくて不愉快にしかならなかったけど、もう今じゃ耳について離れないくらいだ。
「龍司さん、真島さんに会うたんですか!?」
「お、おう、バッティングセンターでな」
いきなり掴み掛られてびっくりしたのか、吃りながらも真島さんと出会った場所を教えてくれた。
よかった。あの人はまだ生きてる。
いや、信じてたけどね。やっぱり実際に会った証言を聞くとめちゃくちゃ安心する。