ゾンビだらけのこの街で
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「真島さん! 真島さん、よかった……よかったぁ……っ」
前はつけなかった鼻水が、今度こそつくんじゃないかってくらいにぎゅっと抱きしめる。真島さんの手が私の頭に触れた。
「約束守れてよかったわ」
「私もっ、ちゃんと約束守りました……っ」
「わしは約束を破らへん。せやから名前はわしのことを信じてくれ。それがわしとの約束や」いつかの言葉が脳内に蘇る。
真島さんの冷たい指先が、頬をかすめた銃の痕をなぞった。
「こない傷だらけになって」
「っ、だって……」
「もう泣くんはなしや。よう頑張ったな」
泣かせてるのは誰だ。
私が泣き止んだ頃、桐生さんが遥ちゃんをさらわれたことを話した。私は覚悟を決めて口を開く。
「そうかぁ。遥ちゃん……さらわれたんか」
「……あの、桐生さん。私、謝らなきゃならないことが……」
「俺にか?」
「はい。……遥ちゃんが連れ去られるところ、この目で見たんです。これがその時の傷なんですけどね」
頬の傷を指差して苦笑いを零す。
「ごめんなさい。目の前で連れ去られて、私は遥ちゃんを取り戻すことができなかった。あの時、私が遥ちゃんを取り戻せていれば今頃こんなことには……、っ」
思い出しただけでも悔しくて悔しくて歯を食い縛る。
突然頭に重みが訪れて顔を見上げてみれば、桐生さんが首を横に振った。
「お前が謝ることじゃない」
そんなこと言ってくれるとは思ってなくて、引っ込んだはずの涙がまた出てきた。
ええ、泣き虫だって認めますよ。
「偽の手紙におびき出された。ハナっから、狙いは俺だ。だから誰の責任でもない。俺の責任だ」
それも違うと思いますけど。そう言いたいのに今の私は言葉を声に出すよりも涙を出す方に忙しいらしい。
「さらったんは、近江連合の二階堂いう男やろな。街をこんな風にしたんも……そいつや」
「二階堂……そいつは今どこに?」
「わしも探してるとこや」
あぁ、二階堂さんとかのこともいつか話さなきゃ……って今話さないでいつ話すんだよ。
とりあえず、この会話が一段落つくまで黙っていよう。
「ここに立てこもっていた人たちはどこに行ったの?」
「……浅木」
「別れは済んだわ。もう大丈夫。」
「賽の河原や。ここにおった連中は、賽の河原へ避難したんや。せやろ、名前?」
「あ、はい。後から来た人たちがいないかと思って来たんですけど」
どうやらあれから後に来た人はいなかったようだ。
「苗字さんから聞いた時から気になってたんだけど、賽の河原って?」
「案内したるわ」
また花屋に愚痴愚痴言われる。
「あそこやったら、遥ちゃんの居場所も見つかるかもしれんで、桐生ちゃん」
「あぁ、そうだな」
そういうわけで来た道を戻って賽の河原へ向かうことになった。