ゾンビだらけのこの街で
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「こりゃすごい……!」
DDの声が聞こえてきて、遥ちゃんと合わせていた目を声がした方へ向ける。そこにはもう二階堂さんの面影も何もないただの化け物がいた。
「二階堂はよほど君らのことが好きらしい」
「おい、桐生」
どんどん大きくなるその体はやがて天井を突き抜け、まだまだ大きくなっていく。天井が崩れ落ち、瓦礫が私たちを襲い掛かってくる。
「遥! 名前!」
「くそが! 名前……!」
どんどん落ちてくる瓦礫が周りを囲んだ。
もう逃げ場なんてない。私は遥ちゃんだけでも、と思いその体を抱きしめる。
そこに一際大きな瓦礫が落ちてきた。
こんなのに潰されたらひとたまりもない。でも、痛みなんかなくて、あ、死後の世界に来ちゃった? とかふざけたことを考えていたら、頭上から龍司さんの声が聞こえた。
「二人とも、大丈夫か?」
「龍司さん……!」
大きな瓦礫は龍司さんの背中で止まっていた。その後の遥ちゃんの「おじさん、ありがと」という言葉に笑みを零す。
「遥! 龍司! 名前!」
「桐生! 二人とも無事や! 桐生。テツを……二階堂を止めたってくれ!」
龍司さんがここまで言うとは思ってもいなかったんだろう。桐生さんは驚いた顔をした後に、瓦礫を足場にして屋上に向かった。
そこからどうなったかはわからない。瓦礫を抜け出して屋上へ向かっている途中に物凄い爆発音が聞こえて、私たちも急いで屋上へ向かう。
「桐生!」
屋上には、この期に及んでまだ逃げようとするDDがいた。
「観念したらどうや? もう逃げられへん」
「殺すのかい? 私を。八つ裂きにしても飽き足らない? そんなに悪いことかな? だって、この世界はさ、大部分の人間にとって生きるのが辛いように出来ているんだ。でも、このタナトスの感染者は極上の幸福感に包まれながら死ねるんだよ? 幸福で安らかな死と、ただただ過酷な人生。どちらがいいかなんて、選ぶまでもない。大して報われもしない人生。そんなものに汗をかくなんて滑稽でさえあるよ。私も仕事柄、悲惨な人間は山ほど見てきた。だけど、君らにはその辺がわかっていない」
「さっきからごちゃごちゃとうっさい。わかってへんのはあんたや。確かに辛いことばっかりやったけど、私はそれでもよかった。今、こうやっていろんな人に出会えたから、辛い人生でも生きてきてよかった思える。……ま、今のあんたには綺麗ごとにしか聞こえへんと思うけど」
押し入れの中から私を救い出してくれた龍司さん。ずっと一緒にいてくれると約束してくれた真島さん。それからいろいろ後押ししてくれた桐生さんと遥ちゃん。後、その他諸々。
安らかな死なんて私はいらない。ただただ過酷な人生でも、私はそこに生きていたい。