ゾンビだらけのこの街で
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ピンポーン。
インターホンの音で目を覚まし、寝起きのふらつく足で玄関へ向かう。がちゃり、と鍵を開けて訪問者を迎え入れた。
「もう、名前さん! 約束忘れちゃったの?」
「ごめんごめん。もうなんだかいろいろ疲れちゃって」
桐生さんを玄関の外に待たせてしまった。急がなくちゃ、と思えば思うほど着替えの服が体に絡みつく。
「あはは、助けて遥ちゃん」
「しっかりしてよ、名前さん」
年下のしっかり者のお姉さんに着替えを手伝ってもらい、いざ平和になった神室町へ。
「それにしてもよかったね、名前さん。真島さんが無事で」
「事情を聴いたときは自分の耳を疑ったよ。咬みついてきたゾンビが入れ歯で、目が赤いのは花粉症のせいだった、だなんて」
そんなギャグ漫画みたいなオチ、誰も予想してなかったよ。
「やっぱり兄さんはただ者じゃねえな」
「ですよね。悪運が強いと言うかなんと言うか」
「悪運の強さならおじさんも負けてないよ。ね、おじさん?」
「遥……」
真島さんに敵う相手が桐生さん。その桐生さんにも敵う相手が遥ちゃん。もしかしてこの世で一番強いのは遥ちゃんなのかもしれない。
再建中の神室町ヒルズに向かい、そこで真島さんを見つける。
そこにはあの女の子もいた。
「おじさん。はいこれ、二人で食べてね。お姉さんにはこれも」
女の子は真島さんにお弁当を渡し、私に手を差し出してきた。とっさに手を出した私の掌に落ちてきたのは、あの日と同じ赤い飴ちゃんだった。
「おおきに」
「ありがとう。大事に食べるね」
女の子は最後に笑って手を振って、お母さんと一緒に帰っていった。
「ほな行こか。西田、後は任せたで」
真島さんはかぶっていたヘルメットを西田さんに渡してこっちに合流した。
これから龍司さんのたこ焼き屋さんに行くんだ。ついでに真島さんの紹介も兼ねて。いや、たこ焼きを食べに行く方がついでになるのかもしれない。
初めはウキウキで遥ちゃんとお喋りしながら二人で先頭を歩いていたのに、気が付けばその足取りと口は重くなっていて、まったく喋らず一番後ろを歩いていた。
それでも足を動かしていれば距離は縮まるもので。
いつの間にかたこ三昧に到着していて、遥ちゃんが龍司さんを呼んでいるところだった。
出来立てのたこ焼きを敷き詰めて遥ちゃんに渡す。
「なんや、ダブルデートかいな。平和になったもんやなあ」
うすうす感づいているのか、龍司さんがぴりぴりしている。怖い。だけどここまで来たんだ。頑張れ私。
私は意を決して口を開いた。
「り、龍司さんっ」
「ああ? なんや」
ひぃ、やっぱり怖いものは怖い。