ゾンビだらけのこの街で
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「真島さぁん。いい加減にお仕事行ってくださいよ」
またこんな朝を迎えられるとは……なんて幸せなんだろうか。しかし起きてくれないと困る。
「真島さん。私、ヒルズの完成楽しみしてるんですから」
「ええやん。わし、今回は頑張ったんやさかい、ちょ〜っとくらい休んでも罰はあたらへんやろ。六代目も許してくれるわ」
「……もう」
背中に温もりを、うなじに吐息を感じながら溜息を吐く。せめてベッドから出たいのに、腰に絡みつくこの男の手のせいでベッドからは出られない。
どうしよう、と頭を巡らせてはもう一度溜息を吐く。
考えるだけ無駄か、と諦めてはもう一度だけ溜息を吐いた。
「……なあ、名前?」
「? なんですか?」
珍しく静かだと思えば、何やら深刻な声が後ろから聞こえた。
「……やっぱなんでもない。ほな、お仕事いってきまーす」
「え、ちょっ、真島さん……!?」
何か重大な話でもあるんじゃないかと思って黙っていればこのありさまだ。
真島さんはベッドから降りていつものジャケットを羽織り、玄関へ向かった。私もその後を追いかける。
やっぱり誰かの背中を追うのは私の運命なんだろうか。昔からこれだから困ったもんだ。
「真島さん、今日は休むって」
「なんや、気ぃ変わったんや」
玄関で靴を履く真島さんをじっと見つめる。あの日、真島さんと連絡がつかなくなった日に似ていてちょっと目頭が熱くなった。
「そんな顔せんといてえな」
「……すいません」
ぽつり、と謝ると、頭上から「我慢できへんようになるから、今はこれで我慢な」という台詞が降ってきた。その後に、真島さんが腰を屈めて私の唇を掠め取っていく。
茫然としてる私に、いつものように「続きは帰ってきてからやな」とおふざけモード満開で真島さんが言った。
その言葉に私は笑みを零す。
「いってらっしゃい」