童話の森

□夢幻屋
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昔々、貧しい女の子がいました。
寒いクリスマスの夜のことです。
女の子はお父さんに、マッチを売ってくるよう言われました。
「マッチはいりませんか。」
道を行く人に声をかけましたが、誰も立ち止まってくれません。
通りに並ぶ家からは、幸せそうにクリスマスを過ごす家族の声が聞こえてきます。
窓をのぞけば、おいしそうな料理や、あたたかそうな暖炉の火が見えます。
女の子は羨ましくなりました。
しかし、楽しくクリスマスを過ごせるほど女の子の家は豊かではありません。
明日のパンを買えるかどうかもわからないのです。
だから、女の子はマッチを何としても売らなければなりません。
「マッチはいりませんか。」
どんなに声をかけても、みすぼらしい女の子には見向きもしてくれません。
夜が深まるにつれ、寒さが一層増してきました。
しかし、マッチが売れなければお父さんは家に入れてくれないのです。
そこで、女の子はマッチで暖をとることにしました。
マッチを一本すりました。
すると、目の前にあたたかそうな暖炉が現れました。
しかし、すぐに消えてしまいました。
女の子はもう一本すりました。
すると、今度はおいしそうな料理が現れました。
しかし、またすぐに消えてしまいました。
女の子はさらにもう一本すりました。
すると、亡くなったおばあちゃんが現れました。
女の子はおばあちゃんに会えて嬉しくなりましたが、おばあちゃんも消えてしまいました。
「待って、いかないで!」
もっと長くおばあちゃんと一緒にいたいと思った女の子は、持っていたマッチを全部、一度にすりました。
すると、おばあちゃんはもう一度あらわれ、女の子を優しく抱きしめました。
「もう、寒くないよ。」

朝、道を歩いていた人が女の子を見つけました。
女の子は冷たくなって死んでいました。
女の子の周りにはマッチの燃え殻がたくさん散らばっていました。
「こんな所で死ぬなんて、かわいそうに。」
「まだこんなに小さいのに。」
みんな女の子の死を哀れみましたが、たった一日で女の子のことを忘れてしまいました。
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