シリウス

□いつか夢見た
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津田を殺してやりたいと思った瞬間、

「…電気…つけていいか?服がどこか分からない」

微かに頼む声に、ふと和らげられ、俺は、立っていって照明をつけた。
にわかに白々と照らし出されたのは、俺たち二人の何とも不確かな立場。

「津田…久住より俺を好きだってのは嘘か?」
「嘘じゃない」
「なら、久住と別れて俺と付き合えよ」
「…無理だ…別れたくない」

服を着てしまえば、まるで何もなかったかのような。
そんなふうに向き合って、俺たちは一体何の話をしているのか。

「別れたく、ないのか」
「ああ…別れたくない」
「あんなやつと?」

俺は拳を握りしめ、震えている。
今さら、何だ。

「…俺には優しい」
「生徒に手を出すやつだぞ」
「…それって…井上も茂思と付き合ってたってことか?」
「付き合ってない。セックスしてただけだ」

怒りか、嫉妬か、はらわたが煮えくり返るとはこのことか?

何故、久住茂思なんだ。

「…俺は、茂思は井上を好きなんだと思ってた」
「バカなこと言うな」
「茂思は井上を大切にしてたのかと思ってた」
「いい加減にしてくれ…!」

何故…俺が津田を怒鳴りつけたりしなきゃならない…

俺は震えているのに、津田は静かで…

「…けどもう分かった。茂思は井上にはひどいやつだったんだな…」

津田は静かで…
そっと優しく俺の手を取った。

この手は久住茂思にも同じように静かに優しく触れるのか。

「ああ…ひどいやつだった…」
「そんなやつを好きだなんて言う俺のことも…井上はもう…だめだろ…?」

津田の手は、優しくて、悲しくて…
俺はこの手を離したくない。
けど、津田は…

「俺のせいにするな。お前が久住を選んだんだ」
「…ごめん、井上…」

謝られたって、いいことなんか一つもない。

「…井上を好きなのはほんとだから」
「久住のほうが好きなくせに」
「井上」

一瞬なんとも言えない顔をした津田は、不意に俺を抱きしめた。
強く、優しく、抱きしめた。

この腕は、久住茂思のものか。

「好きだ…井上…ほんとに…」

耳許で囁かれた声は、切なげで泣きそうで、信じてしまいそうになる。
津田に運命づけられているのは自分なのだと。

「久住を好きなくせに…」

津田を抱きしめながら、涙がこぼれた。
津田は、久住を好きなくせに、俺のことも好きだと言う。
言いながら、迷ってすらいない。
どちらを選ぶか。

「井上…あの頃、言えてたら…良かったのにな…」
「そうだな…。けど、俺は今だってかまわないのに。津田…お前が俺を…振るんだ…」

涙が止まらない。

「井上…」

津田は腕をほどいて、両手で俺の頬を包み、指で涙を拭った。
見つめる目は…俺を好きだと語りながら、別れを告げている。

「…さよなら…加保…」

唇にキスを残して、

「津田…行くな…!」

津田は行ってしまった。


2016.07.22
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