シリウス

□恋なんかしてる場合か
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「体育のあと、4時間目、仲原とフケてどこ行っとってん」

食堂でランチセットAを食べながら遠野が少し不機嫌に呟く。

「え…別に」
「高橋に保健室に連れてかれたって言ったら、あいつ、面白そうに笑っとった」
「あ、そうなん」
「…仲原と高橋はデキてるって噂、お前、知ってんの?」
遠野が意外なことを言い出す。
噂話なんて興味ないくせに。

「遠野こそ、よく知ってんな」
「2年とき一緒のクラスやったし…高橋と」
「へえ…」
遠野とは1年のとき同じクラスで親しくなって、2年では別々だったけど、3年になってまた一緒になって。だから遠野が2年のとき高橋と同じクラスだったなんて知らなかった。

「仲原は隣のクラスやったけど、しょっちゅう高橋のとこに来てたから」
「だから、デキてるって?」
遠野が話しながら、段々目を合わせなくなっていることに気づく。
「…俺は」
遠野がまるで俺を見ないで、半ばヤケといった感じで、
「西川はからかわれてると思う」
「仲原にか?」
「そうや」
「なんで」
俺は笑った。可笑しくて。
遠野はぶっきらぼうだけど優しい。本気で俺を心配してる。
けど、仲原は、俺に恋してるって言ったぞ。
「仲原が高橋とキスしてるとこ、見た」
「…2年のときにか?」

“俺のやることは皆冗談やと…”
頭の中で仲原の声がこだまする。
胸が痛い。バカバカしい。キスくらい。
仲原は、高橋を、好きやったことはないと、はっきり言ったんだから。

「俺が言うようなことちゃうかも知れへんけど、西川らしくないやろ。仲原みたいなやつとつるんでんの」
「なに、苛ついてんねん」
「…高橋も仲原も気に入らへんし」
遠野がこんなことを言うなんて初めてで、驚きすぎて意味が分からない。
「へえ…、なんで…?」
「だから高橋と仲原は…」

圧し殺した声で苛立たしげに言いかけた遠野の肩に、「俺と高橋が何やって?」と、仲原が背後から手を掛けた。

食堂だ。いてもおかしくはない。えらいタイミングだが。

遠野はその手を払って、驚くほどきっぱりと言い放つ。
「高橋とデキてるくせに、西川に手え出すなよ」
おいおい。これじゃ今度は俺ら3人が噂の的やわ。落ち着け、遠野。

「何度言わせる気やねん、遠野、俺と高橋は何でもないって」

遠野の頭に顔を近づけ、耳元に囁いた仲原の言葉を、俺の耳は聞き取る。というか、むしろ聞き漏らすまいと息さえ殺してる。
なんだ、これは。これも恋か。まったく。

「高橋は、そうは言わへんかったけどな」
「高橋の言うことなんか真に受けんなよ」
「お前ら、二人とも嘘つきのロクデナシや」

いつもの淡々とした物言いで遠野はけっこうな悪態を。

「それは高橋だけやって」

最後に仲原は俺に笑って、立ち去った。
俺は、遠野に、聞くべきなのか?聞かないほうがいいのか?
そもそも俺たちはどんな友人なんだ?
だけど…遠野のぼんやりと放心した顔を見たら、聞かずにいられなかった。

「遠野…高橋となんかあったんか?」
「え…?…ああ、高橋か。そうやな…つまり…からかわれたのは俺やってこと」


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