▼エレリ

□残された者達は
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コンコン、と小気味良い音が部屋に響く。



「…失礼します、リヴァイ兵長」



エレンは静かに戸を閉め、ベッドに腰をかけているリヴァイの元へと歩み寄った。

明日はエレンが王都へ召還される。
その前にリヴァイに会いに来たのだろう。―――と思っていた。



「どうした、眠れないのか」

「……兵長…」



リヴァイの前にしゃがみ込むエレンの頭をポンポンと軽く叩く。
しかしエレンの表情は暗く、顔に深い影を落としている。
それに対しリヴァイはというと、とても穏やかな瞳でエレンの旋毛を見つめていた。



「脚、痛みますか?」

「いや」



短く返すと、エレンの金色の瞳がこちらを見上げた。

その純粋な瞳には適わないことなんかリヴァイ自身がよく知っている。



「…いや、まだ、少し痛む」

「そうですか…」



そう言うと、エレンは再び顔を伏せてしまった。



「……ごめんなさい…」

「なぜ謝る?」

「俺が、判断を間違えたから」



リヴァイ班の精鋭たちは、まだうら若き少年の目の前で女型の巨人に殺された。
それはまるで、虫を殺すかのように容易く。
赤く弾けた血飛沫が、脳裏に鮮明に焼き付いて離れない。

悔しさで震えるエレンを見兼ね、リヴァイは優しく諭した。



「エレン、お前は間違ってない」

「どうしてそんなことが言えるんですか?
みんな…みんな死んだんですよ!?俺のせいで、俺が、あのとき…正しい判断をしていれば…!」



―――ああ、なんて…この世界は残酷なのだろう。

まだ自分の半分しか生きていないこんな子供が、目の前で仲間を殺されて平気なわけがない。
その身体に不相応な程の重荷を背負わされ、今、もがき苦しんでいる。

その荷物も、悲しみも、全部俺が引き受けてやることができれば…。

そんなことは言えるはずもなく、その言葉さえも胸の奥に仕舞い込んだ。

実際、リヴァイも数え切れないほどの荷物を既に背負ってしまっているのだ。
今までに死んでいった仲間たちの意志を希望に変えるために。
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