▼エレリ

□林檎と花と初恋と。
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序章▽生徒手帳



別に目立ちたい、だなんて思っていない。だからといって今の現状に不満がないと言ったら、それはきっと嘘になる。
周りで放課後の予定やら自分の腹の現状やらを話している人々を横目で見やりながら溜め息をひとつ。

所詮はひとりぼっちさ、授業の終わった教室に孤独は必要ないのだ。黙って荷物を纏めて最後列のぽつん、と置かれたいかにも"孤独"な席から立ち退く。ガラガラと椅子を引きずる音がどんなにうるさくともそれは日常の雑音として処理され、誰一人として此方を向く者などいやしなかった。

廊下に出ても二人以上の人の塊ができているのが一瞬振り返るだけでも解る。だが、その中に紛れ込んだ孤独は、同じ孤独の目からしても留まりにくい存在であった。
人混みを掻き分けて少々薄暗い階段を目指す。階段になると多少人が減ったからか、心なしか息苦しかった圧迫感から解放された気分で一定のリズムを刻みながら降下していく。

一人で困ったことなんて、小学校を卒業してしまえばそうそうない。強いて言うなれば体育の時間のペアがいないことぐらいだが、そんものはどうとでもなる。人間は一人では生きていけない、なんて言うけれど実際はそうじゃない。現に、ここにも一人。孤独の中にひっそりと生きている。
…ああ、いけない。考え事をするとまた溜め息が出てしまう。元々幸なんて薄い方なのだ、今更そんなことを気にしたってどうしようもない。そもそも溜め息で幸せが逃げるなんて信じていない。そんなに簡単に幸せがどこかへ飛んでいってしまうというのなら、この国に住む人間の一体何割が幸せだと言えるほどの幸せを持ち合わせていて、何割が不幸と言われるのだろうか。
自分は、勿論後者だろう。性格が性格なだけに人を寄せ付けづらいということもある。そんな人間がほかの誰かに見つけてもらえるだなんて、考えたこともなかった。

だから驚いた。

自分の靴箱の前に誰かを待っているように腕組みをした背の高い少年がいることに。
いや、自分が小さい方だから相手方が大きく見えるだけかも知れない。
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