▼エレリ
□林檎と花と初恋と。
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「リヴァイ」
「……は?」
「リヴァイ、ってお前だろ?」
「ああ、そうだが」
「やっぱり」
動揺して唖然するリヴァイに気付いたのか、少年は笑顔で駆け足気味にこちらへ近づいてきた。
それ以前に、…何故俺の名前を知っている?普段誰も呼ばないであろうその珍しい名前は、紛れもなく自分のものだ。もしかしたら、こんな自分でも誰かに見つけてもらえたのかもしれない。
胸にひとつの小さく淡い希望を抱いたリヴァイに人一人分の間を取って立ち止まった少年はリヴァイの胸元になにか差し出してきた。手のひらサイズの、本のようななにか。
これは―――。
「俺の……生徒手帳、だ」
「なんかさ、教室の前に落ちててさ」
「……そうか」
「ここで待ってたら会えると思って」
「…助かった、礼を言う」
数日前から行方不明となっていた生徒手帳。特に意味はないがパラパラとめくっておおざっぱに中を確認してからブレザーのポケットに突っ込んだ。と同時に肩から力が抜けていった。
なんだ、そういうことか。顔には出さないが少々期待外れだったようだ。つまりはこの生徒手帳の主を探すためだけに名前を呼んだ、ということ。やはりこんな俺が誰かに見つけてもらえるなんてこと、ありはしないのだ。
また溜め息をつきそうになってしまったが頭上に接近してくる手に反応して出しかけた空気を喉の奥へ強制的に戻した。
「なんか、ゴミついて…」
「―――ッ!!」
その手が黒髪に触れる寸前、それを払いのけて一歩、また一歩と後ずさる。少年は男子にしては大きい金の瞳をさらに大きく丸くさせ、空中で行き場を失った手をその場に留めたまま。
彼には悪いことをした。だが故意でしたのではない。リヴァイは所謂潔癖症というやつなのだ。人に触られるだなんて、そんな思考から自然と自分から他者へ向けて壁を作っていたのかも知れない。