▼エレリ

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音楽を聞きながらTシャツ短パンで走る老人、犬の散歩をしている子供、ただ単に外をふらふら歩き桜を見上げる男女のカップルなど、すれ違う人間には律儀に会釈をする。人としての常識だ。

まだ少し寒いが、家に着く頃には身体はすっかり温まり、太陽もやっと地平線から顔を出す。
日の出を見ると、ああ、一日が始まったんだな、と実感する。なにもない一日。誰と関わることもない、平凡な、平凡以下な意味のない一日が。そう思っていた。

自分の部屋に戻り朝食と弁当を同時進行でつくる。フライパンの上で卵を割れば今日は綺麗な目玉焼きができたと満足する。
それからやたらと殺人事件やら強盗やらと、物騒な事件ばかりを流すニュースを見て、そのうちテレビの電源を切ってしまう。
こんなもの見たところで自分の日常になにかが起こるわけでもないのだ。
朝食に使った皿を洗剤で綺麗に洗い、制服に着替え、時計を確認。
…よし、いつも通り。

教科書が詰まったカバンを肩に提げ、玄関で靴を履くと誰もいない部屋に向かって小さく行ってきます、と呟き家を出た。

外に出てみれば、さっきまで見ていた風景とは一変して、紫に光っていた桜の花は朝日に照らされて桜本来の色を取り戻し美しく輝いていた。



「……綺麗だな…」



誰に言うわけでもなく、ぽつり、と独り言。それを寂しいと感じたことはない。小学生までは別だったかもしれないが、今となってはなにも感じなくなっていた。所詮は独り言なのだ。
他人との接触がないため、自分の感情に鈍くなってしまっているのだ。だがそれも今更。
一人で歩く道はやたらと広く感じるものだ。寂しくはないが、これ以上言葉を発すると虚しくなりそうで、それから先は黙って歩いた。斜め上の空を見上げながら、ただひたすらに、一定の速度で歩き続ける。

だから気づかなかった、だなんて言い訳をするわけではない。が、驚かされたのは事実で。それも、昨日と同じような光景に。
あの曲がり角に立てられた標識の下に佇む少年は…。

ブレザーのポケットに入れたまま放置されていた生徒手帳の形を布の上から確認すれば、心臓が跳ね上がった。


自分の存在に気づいた少年は、こちらを向いて笑顔で告げる。




「おはよう、リヴァイ」



―――その笑顔は、桜の花がよく似合っていた。



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