▼エレリ

□愛しきその手の温もり
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伏せた睫毛の隙間から覗く光の粒はまるで星空のような。すぐ近くにあるように見えて、実は何万光年も離れている星たち。
俺の手は、その星に手が届くのだろうか。エレンという存在は、果たして俺が触れていいような代物なのだろうか。…まあ、俺がどうこう考えたってエレンのことだ。きっと俺が嫌だと言ったって自分から近づいてくるに違いない。
俺はその優しさに縋ってしまう。今だって、振り払うこともできずにエレンの優しさに、温もりに、甘えている。でも…どうか。来年も再来年も、俺たちが知り得ないまだ未来の先も、どうか、エレンの隣にいられますように。



「部長?どうかしましたか?」

「ん?……いや、別に。エレンよ…お前…あったかいな」

「あったかいですか?」

「…あったかい」



本当は今すぐ懐に潜り込んで抱き締めたい。でも流石にそれはできないし、なにより手から全身に伝わる温もりと俺を見下ろす月色の瞳で、もう既に熱いくらいで。抱き締めたりなんかしたらきっとどうにかなっちまう。

俺の手を握り込むエレンが、もうすぐ新年ですよ、といって間もなく周囲からのカウントダウンが湧き上がった。

新年まで残り時間、あと10秒。



「リヴァイ部長、一緒に数えましょう!」

「…ああ」




――あと5秒。


――4秒。


――さん。


――に。




―――いち。



あけましておめでとうございます、エレンが呟いた声は歓声と拍手と溢れかえる着信音で掻き消された。が、俺にはちゃんと聞こえた。甘酒呑みたいですね!という言葉まで、一字一句間違えることなく。
その返し、確とエレンの言葉を鸚鵡返ししてやった。勿論、前者の方で。



「あけましておめでとう、エレン」

「おめでとうございます!あっ、ところで甘酒は…」

「ほらもうすぐで俺たちの番になるぞ、賽銭用意しとけよ」

「あれっ、甘酒……あっるぇ?」



徐々に進んでいく人の波に乗せられて鐘の鳴る方へ近づいていく。俺とエレンは一旦手を離し財布を取り出し、その中から10円玉を一枚握り締め財布をポケットに戻した。エレンも同様に、財布の中なら鈍い金色の小銭を出した。よく見たら穴があいているな。5円玉か、とどうでも良いような思考を巡らせていた俺の視線に気付いたエレンが、それを顔の横に持って俺に見せてきた。大して変わりはないどこにでもあるような、ごくごく普通の5円玉。
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