▼エレリ
□雪の中に咲いた花
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…そういえば、と。このあとどうするか決めていなかったことに気がついた。
このままお開きになってしまうのだろうか。せっかく繋いだこの手を、あと少しで離さなくてはいけないと思うと。勿論そんなの嫌だ。でも、リヴァイ部長が帰りたいと言ったら。まぁそのときはしょうがないけど、でもやっぱり。もうちょっとだけ、一緒にいたい。
不意にかけられたエレン、という声。それにハッと我に返って自分より小さな愛しい人を見下ろした。薄く光るダークグレイの瞳が揺らめいて、やけに扇情的に見えた。
「どうかしたか?」
「あっ、いえ……あの!えと、…」
「………」
もごもごと口籠もる俺をただ見上げ、知らずのうちに止まってしまった足を動かす気配もなく俺が切り出すのをじっと待ち続けてくれた。
何かと言って、この人は俺の想像以上に、俺に甘いんだと思う。無自覚なのかは解らないけれど、いきなり唇を奪ってしまったときだって後から咎められることもなかったし。中々事に及ぼうとしないもんだからてっきり嫌なのかと思ってたけど案外あっさり寝させてくれたし。ただ単に優しいだけなのかもしれないけど、俺はどうしてもその優しさに付け込んでしまう。
別にそれを利用しようとか、そういうような考えは全くないが。なんだかどこか心苦しい気もする。それを解っている上でやめない自分を許せなくて、でもやっぱり彼の優しさが、愛おしくなってしまう。今もきっと、こう言ったら彼は断らないだろうから、と。卑劣な考えで彼を誘うんだ。
「…寒い、ですし…部長の家より俺ん家の方が近いから……来ませんか?」
「……ん、行く」
一拍の間を置いて視線をやや前方に傾けたあと、少し俯きながら口許をマフラーに埋めるように小さく頷いた彼の手を握り締めて、彼が少し出遅れるカタチで。
雪が舞い散る暗い夜道を互いの温もりと街灯の灯りだけを頼りに、ゆっくりと歩き出した。
―――
リヴァイ部長ほど稼ぎがないとは言え俺だって一端の社会人だ。最近できた3LDKマンションが現在の俺の住まい。駅から遠い分家賃もお安めで平社員の俺にとってはかなりお得な物件。
ものも少なめな部屋でも毎日の掃除を怠っては綺麗好きの大好きなあの人からダメ出しを食らうと同時に俺の評価が下がってしまう。
だからというわけではないが、日頃しっかり掃除をしていたお陰でこのような事態にも対応できた。…はず、なんだけどなあ。