▼企画
□解ってるつもりでも
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情事の最中というのは、嫌でも相手の首もとが見えてしまうものなのだろうか。白い肌にくっきりと浮かぶ赤い痕が目の前にちらついて、どうも与えられる快感に集中できそうにない。
それらはエレンの胸を切なく締め付けるばかりで。今リヴァイに抱かれているのは間違いなく自分だというのに、リヴァイの心をどこか遠くに感じる。
溶けるような目線も、熱を孕んだ吐息も、頬を撫でる手のひらも、どれもこれも優しくて甘いのに。それでもエレンの意識は点々と色づく花弁に向いてしまう。
…増え、てるよな、この前より。いや、やっぱり気のせいかも。
「……おいエレン」
「っあ、はい…」
「集中しろよ」
「えっあ、すいませ……っ」
集中なんてできるわけないだろうこんな状況で。やはり絶対に増えている。
そうだ、毎回だ。本部に顔を出した日には必ずといってもいいほど散った花弁の枚数が増えているのだ。それも、鎖骨や胸元や、やたらと見えやすい場所に幾つも幾つも。
…ああもう。これが見たくなかったから今日は嫌だったのに。それとも、この人はこんなものを見せつけるために誘い込んだのだろうか。俺を遊んでいるだけなのだろうか。俺は、なんのために今ここで、こんなことをされているのだろう。
俺は、ただ純粋に、貴方のことが好きなのに、貴方は……。
「もう…解んないや」
「エレン…?」
上に跨がり見下ろしてくるリヴァイの肩をぐい、と後ろに押すと、驚いたことに一切の抵抗もなく、その行動を受け入れるようにあっさりと白いシーツに沈んでいった。艶のある綺麗な黒髪が一層目立ち、肌の白さはシーツと同化してしまいそうで。もしそうなったら、きっとこの痕だけが残骸として残るのだろうな。
美しい身体に取り付いた唯一の穢れ。忌々しくて汚らわしい花びらを剥ぎ取ってやりたくて仕方がない。
鎖骨をなぞり、その上の鬱血した痕に軽く爪を立て、そのまま首筋に手を滑らせる。リヴァイの眉がひくりと動いた。