▼企画
□解ってるつもりでも
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「ねぇ兵長…」
「……」
「俺、こんなとこに痕つけた覚え、ないです」
「……」
「……」
「…そうだな、」
痕なんて、つけたことすらない。
散りばめられた無数の花びらはどれも知らない人間のもので、その中にエレンのものは一つたりとも混じってはいない。
別に拒まれたからとか、そういうのじゃない。そんなことされたことない。リヴァイは不器用ながらも自分の子供っぽい行動を、全て受け入れてくれるのだ。さっきだって。
そうさ、拒まれたことなんて、一度もない。
ダメなのは自分だなんて、そんなの解ってる。
痕をつけたくない訳でもない。ただ、エレン自身がその雪肌に痕なんてつけてもいいのだろうか、そう考えては結局なにもできずに終わってしまうのだ。それどころか、触れることすらままならない程に。
自分の手が、この人の玉肌に傷をつくってしまったら、きっと、どうしようもない罪悪感を抱くことになるだろう。背中に引っ掻き傷一つつけたことすらないのに。
対してエレンの首筋。リヴァイ程ではないがやはり赤い花弁が散りばめられていた。印の主は勿論、リヴァイだ。
自分でも哀れだと思う。自分の恋人に、所有印すらもつけられないなんて。それでも、貴方はきっと知らないでしょう。こんな俺の気持ちなんか。
「解りますか?毎回増えていく痕を見せられるこの気持ちが」
「……」
「貴方は考えたこともないでしょう?触れたくてもまともに触れられない、つけたくてもつけられない、こんな俺の気持ちなんか」
リヴァイは依然黙り込んだまま。潔癖症が露になっている隅から隅まで整理された部屋に反響するのが自ら放った言葉だけ、という状況がエレンに火をつけた。
小さな火は燃え広がり、語尾が熱を持ちはじめる。
「恐くて、恐くて、しょうがないんです…」
「……」
「貴方にいつか見捨てられるんじゃないかって」
「……」
「この痕が増える度に、膨張していくこの不安が…貴方に解りますか!?」
そうだ、ずっと不安だった。
年の差もあってか、自分は本当に愛されているのだろうか、と何度考えたことか。それでも信じて今までやってきた。増え続ける花弁から目を逸らして、愛されることだけに意識を向けて。零れそうな涙を必死に堪えて。