▼トレジャー
□思い出の中の君は如何お過ごしですか
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この頃空気が冷えてきた。指先が冷たくてカイロでも出してやろうかと思うほど。
ああ、夏に戻りてぇ。
そんな寒い朝は俺の敵であり、また一段と寒い今日に限ってあの画面の中の馬鹿は寒さと比例するくらい元気だった。
『起きてくださいご主人!朝ですよ!あーさーでーすーよーっ!』
「ぅるせえええええええええぇぇぇッ!!」
そいつは俺の天敵、そう、エネミーである。だからエネって変な名前なんだ。
なんなんだ全く朝から騒ぎ立てやがって。ああいやだ、これ以上渋るといつぞやのナントカサイレンが鳴り出しそうで恐い。俺は渋々身体を起こし、視界が霞む目を擦る。
「…あー……、」
『おはようございます、ご主人!』
「はいはいおはよう…」
腹をポリポリ掻きながら部屋を出る。トイレに行って顔を洗って歯を磨く。エネがいつもよりうるさい点を除いてはなんら変わりない普段の日常、だった。モモの忙しなくいってきます!という声が聞こえるまでは。
なんなんだどいつもこいつも。今日は土曜日だぞ。
「…いってらっしゃ〜い」
「あ、お兄ちゃんも来てよねっ!」
「ふぇ…、……………なにに?」
「あれ言ってなかったっけ?今日はほら、」
文化祭じゃん!と歯ブラシを咥えたまま唖然とする俺の前で飛び跳ねた。
―――文化祭、だと?
「あ、やばっ、間に合わない!じゃお兄ちゃんいってきます!」
慌てて家を飛び出していくモモを見送り、暫し考え込み、一人で納得する。
エネのやつ、これに行きたいからはしゃいでんのか。モモから話を聞いててもおかしくない。
うんうん、と頷くと泡が口端から零れてきたので慌てて洗面所に逃げ込んだ。