▼トレジャー
□思い出の中の君は如何お過ごしですか
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自室に戻ると案の定エネが文化祭の話題を持ち出してきた。
『行きましょうよ文化祭っ!』
「おー…」
『妹さんのクラスはお化け屋敷をやるらしいですよ!』
「あぁ、そう」
『…………ご主人、聞いてます?』
「聞いてない」
母の手作りサンドイッチをもさもさと口に頬張りながらエネの無駄に高いテンションに生返事をする。今日はハムとツナサンド。このシンプルかつ幸福感を満たしてくれるような味が堪らない。
黒くて糖分の高い炭酸飲料でパンを咽に流し込みながらマウスを滑らせクリック音を鳴らす。
最近のエネはスマホが気に入ったのか、滅多にパソコンの方へと来なくなった。俺的にはこれ以上ないほどありがたい。誰にも邪魔されずにスムーズに動いてくれるパソコンというのはなんて気持ちいいのだろう。
キーボードに手を置きカタカタと無機質な音を繰り出していると頬を膨らませたエネの顔が画面いっぱいに映し出された。
「…どわっ!?び、びっくりさせんな!またコーラ零したらどうすんだよ!?」
『ご主人!文化祭!行きましょうよ!』
「うるせぇよ行かねえって!!」
エネの顔がみるみる不機嫌な色を醸し出していく。ああ、そこクリックしたいのに。ホント邪魔。文化祭ならモモに連れてってもらえばよかっただろ。
『…ご主人と一緒に行きたいんです』
「……………えっ、?」
つい間抜けな声が出てしまった。
目の前のディスプレイの中にいる小さな蒼い少女は人差し指の先同時を突っつき合わせ、肩をモジモジと左右に揺らしている。
俺と行きたいって……つーか、
「俺とじゃなきゃ行けないだろ」
エネには脚がなければそれ以前に実体がない。電脳世界の住人が現実世界に侵入するなんてこと今の科学じゃ到底無理なわけで。
呆れ顔の俺に向かって違います!と全身を使って否定した。
『そうじゃなくて!ご主人と回りたいんですっ!』
「え〜……」
外に出るなんて、冗談じゃない。
こんなクソ寒い日に外出だなんて…コイツは俺に死ねとでもいいたいのか?
話にならん。却下だ。
『……へぇ、』
「?なんだよ…」
『そんなこと言っていいんですか』
皿の上に残っていた最後のツナサンドをかじり椅子の背凭れに凭れかかる。ギシリ、と少々うるさいようにも思えるありきたりな音を出して少し後退する。