▼トレジャー
□思い出の中の君は如何お過ごしですか
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さて、今回はどんな奇行を取るのやら。
中身が半分程しか入っていない1リットルのペットボトルを床にそっと下ろした。パソコンが壊れるのだけはゴメンだからな。
さあ来い。いつまでもお前の恐喝に負かされてたまるか。作曲途中の音楽か?それとも俺のお宝画像か?
強気に構える姿とは裏腹に実際はかなり怯えている俺に向けられた行為とは、それはあまりにも衝撃的すぎた。
『………っ…』
「え、…エネ、さん?」
蒼い瞳からはポロポロと涙が流れ出ていた。頬から滴り落ちた雫は電子的な泡となって儚く消えていく。
…え?泣いてる?まじで、え、まじでッ!?
「ちょ、おい泣くなよこんなことで」
『…も、ご主人なんかキライです……っ!』
「!!!!!」
エネは二つに結った髪を揺らしながら俺に背を向けた。
そりゃあこんな俺だって罪悪感ぐらい感じるさ、感じるとも。こんな得体の知れないヤツでも毎日顔を合わせなきゃならない相手な訳だし、なにしろコイツは女子なのだ、一応は。
女を泣かせるなんて男として最低だぞシンタロー!
いや、こんなヤツなんて放っておきゃいつの間にか機嫌もよくなるだろ!
なんて会話が俺の頭の中で善シンタローと悪シンタローによって繰り広げられている。が、やはり男のプライドを捨て去ることができなかった。俺はなんて弱いヤツなんだ。だからヒキニートなんだ。
「…わ、わかったよ」
『え?』
「行けば…行けばいいんだろ!文化祭!」
ああ、もうヤケだ。
言い放つ俺に振り返るエネの顔が明るくなっていく。ぱあっ、という効果音がお似合いなくらい。
『ほっ本当ですか?』
「ああうん…ホントに」
『メイド喫茶とかお化け屋敷とかバンドとかっ?』
「バンド?そんなのあったっけ」
『妹さんが言ってました!体育館でやるらしいです!』
「へぇ…」
『やった!やった!文化祭!』
こんな小さなことで大はしゃぎするエネの笑顔を見て安堵している俺は本当に弱いヤツだ。エネの喜んでる姿につい口許が綻ぶ。
よかった、なんて感情は心の奥にしまって気づかないフリをした。