▼トレジャー

□崩壊が始まるまでの物語。
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それは、俺がこの学校に転勤し、エレンが二年生に進級したときのことだった。

桜が舞い散る始業式。体育館に窮屈に押し込められた生徒たちは校長の話を欠伸で聞き流し、壇上に立つ小太りした校長の後ろには並べられたパイプ椅子に新教員たちが座らされていた。歳の食った白髪教師や厚化粧を施した事務員、去年実習生を卒業したばかりの新米その他諸々。勿論、その中に俺も混じってはいたのだが。
ステージから見渡す生徒は皆平和惚けした面持ちで、特に真面目そうなヤツも然程いなければ風紀を乱していそうな輩も見受けられなかった。
そんな中から、ひとつ。俺の身体を射抜くような視線を感じた。誰からかまでは解らなかったが、それは俺がこの場に現れてからずっと。俺のみを貫き続けている。

いつの間にか校長の長ったらしい話が終わり、新教員一人ひとりの自己紹介がはじまっていた。それに気がついて直ぐに俺の番が来てしまった。話す内容は取り敢えず纏まってはいるが…やはり感じる視線に違和感を抱きながらぎこちなく壇上に立った。

そして、漸く解った。突き刺さる視線の正体が。

こちらを向く数多の顔の中にひとつ、周りの人間とは違う歪んだ雰囲気を纏った翡翠色の瞳。
なにが違うのかと問われれば、解らないとしか言いようがない。ただどこかが外れたような、異様な雰囲気。

薄ら笑いを浮かべるその生徒を尻目に俺も自己紹介をはじめた。



「二年数学の担当をするリヴァイだ。…よろしく」



マイクがやや高めの位置にあったため少し苦しげに、そして端的に纏めてはそそくさと背後にひとつ空いたパイプ椅子に戻っていった。

その際、ちらりとあの翡翠の少年を一瞥してみた。
未だに熱い視線を送ったまま、口角を不気味にあげていた。
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