Abbey Road

□Golden Slumbers
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ここを離れる気にはなれなかった。
シリウスが死に、ここは騎士団の本部ではなくなった。
グリモールド・プレイス12番地にあるこの屋敷は、代々ブラック家の氏に所有権があるらしい。
シリウスは最後のブラック家の直系の末裔だった。
彼がいない今、ここの所有権が誰のものかわからない。
ダンブルドアはベラトリックスに屋敷の所有権が移るのではないかと考え、騎士団のメンバーにここを離れるよう命じた。
シリウスをここへ閉じ込め、私にここに住むように命じたくせに、「今度は急に離れろ」だなんて、ダンブルドアはあまりにも勝手だ。
確かにここは私の屋敷ではないし、それは当たり前のことかも知れない。
けれどシリウスと過ごしたこの場所はもはや、私にとっては自分の家と同じなのだ。
この屋敷で彼と食事をとり、時には抱き合って眠った。
後ろを振り返れば彼がそこにいるようで、またニヤリと笑ってくれる気さえする。

でもここに、彼はいない。
この世界のどこにも、シリウス・ブラックは存在しなくなった。

「ルーシー、急いだ方がいい」

色褪せたグリフィンドールのタペストリーを見つめていると、部屋の戸口から声が聞こえた。

「私、ベラトリックスが現れたって構わない」

振り返らずにそう言うと、声の主が部屋へ足を踏み入れ、私の背後に立つ気配がした。

「ダメだ。ダンブルドアの命令だ。それに…危険かも知れないんだ」

優しく私の肩に手を乗せ、リーマスが「さぁ」と促した。
私は駄々を捏ねる子供のように、何度も首を横に振った。
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