黒犬のワルツ

□黒犬のステップ#1
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「心配しなくても一人でロンドンまで来れたのに」

9月1日、キングスクロス駅は大勢の人で賑わっていた。
人ごみの中カートを押しながら歩くのは容易なことではない。
しかもその隣を祖母が歩いてるのだから、気が気でなかった。

「ミルザを心配してここまで来たんじゃないよ、あたしはトムに会いたかったんだ」

70歳を超えたとは思えない軽快な足取りで歩きながら、祖母が笑った。
トムとは私のホグワーツでの大親友で、祖母は彼をひどく気に入っている。

「いつまでも元気なつもりかも知れないけど、おばあちゃんだってもう歳なんだからね」

諭すように私が言うと、祖母は心外だという顔をした。

「あんたの学校の校長先生だって、写真を見る限りずいぶん歳じゃないか」

ダンブルドアとおばあちゃんは違うんだってば。
心の中でそう呟いて、私は小さく溜め息を吐いた。
ダンブルドアは偉大な魔法使いだけれど、うちのおばあちゃんはただのおばあちゃんなのだ。
呪いを放つことも避けることも、怪我した時に癒すことすらできやしない。
だからこうして心配しているのに、本人は随分呑気なものだ。

「おや、噂をすれば」

祖母の弾んだ声に顔を上げると、前方で大手を振る人が見えた。
嬉しそうに全身でアピールしているあの姿は、親友のトムに違いない。
夏休みの間にまた身長が伸びたのだろう。
昔は私より小さかったのに、今の彼は私より頭3つ分は背が高い。

「マチルダさん、お元気そうで」

小走りでやってきたトムは満面の笑みで、祖母に右手を差出した。
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