碧に染まって
□ホーム
3ページ/4ページ
フランクリンとシャルナークが戻ってくるまでの間、取り敢えずトランプは片付けることにした。今日はもう飽きてしまっただろうし。
全員のカードを回収する。まぁ、殆ど私が取っているので然程無いが。
『フェイタン』
「………」
フェイタンにも呼びかけ、カードを受けとる…………とりたかったのだが一向にくれない。
『………』
後はフェイタンの分で終わりだ。別に無理に回収する必要もないが……これは意図的だ。何かの意思。
『どうしたら渡してくれるかな?』
一度既に集めたトランプをテーブルに置き、フェイタンの顔を覗き込む。
……そういえばさっきからフェイタンだけ一向に口を開いていない。
「……もうワタシ子供じゃないね」
そう返答が返ってきて目をパチパチさせる。……ああ、つい子供に話しかけるようにしてしまったか。
『ああ。ごめん。つい癖で……じゃあどうしたら渡してくれる?』
今度はなるべくフランクに尋ねる。同年代に話しかけるように意識した。この癖は直さないとな…。
フェイタンは背けていた顔を私と合わせる。
「…さきの、一体なにした」
『さっき…?』
「急にワタシの前に現れた。…あれ、何したね」
フェイタンの言葉を聞いて考える。
……さっき、なのだからそう遠くない時間だ。そもそもここに来てからまだ数時間しか経っていない。だから忘れる、なんてことはあり得ない。……しかし、フェイタンの言っていることに該当するようなことがあっただろうか。
急に現れた……私に転移のような能力はない。
『……ごめん。もっと具体的にいいかな』
「…………ワタシに向かてきたときね」
…私が来て早々フェイタンにした"ちょっかい"のことだろうか。それ以外に向かっていったことはない。
だが、…急に現れた…?
「ノアはオレたちの前に現れるとき、何か特別なことをしなかったのか?」
ずっと悩んでいたからだろう。少年が聞いてくる。
『う、うん………絶はしてたけど…』
「!」
言えばフェイタンの目がかっと開いた。……それからなぜか睨まれる。
周囲のみんなもどこか驚いたような顔をしていた。
クロロ少年が念を知っているのだからみんなも知っているだろう。驚く、ということは絶が何なのか分かっていないと出来ない。
「ノアはどこで念を覚えたんだ?」
少年に聞かれ私は少しドキリとする。……"どこで"、ときたか。どうやって、ではなく。
『ええっと……ね……』
それはつまり…私が独学やあるきっかけによって念を習得したのではなく、誰かに習った、と確信している。
念自体を習得したのは君たちも見ていたけど……と言ったところで新たな問いが来るだけだろう。ここで少年が求めているのは"絶"というものを習った方法だ。
……ゾルディック家のことを言うか否か。言ってはいけないと、明確に指示されたことはない。けれどそれは、"暗黙の了解"のようなものだった。様々なことを教わっているのだからゾルディックの情報は外部に漏らさない……例えそのきっかけが私の同意では無かったとしても。…結局、ゾルディック家からはたくさんのことを享受している。
ゾルディック家自体は隠されたものではないとしても、内部的な情報が漏れるのは嫌だろう。
それに…これは、私の問題だ。彼らを巻き込むわけにはいかない。殺し屋を否定する気は無いが、通常なら関わりたくないものだろう。
『……言えない』
言わないことで余計に疑心を煽ってしまうかもしれないが……それでも言えない。むしろ"言えない"という答えが私にとっての嘘偽り無い答えだった。
「どうして?」
…流してはくれないようだ。少年の目がこちらを探るように潜められていた。
『まず…言っていいのか分からない、というのと…君たちを巻き込みたくないから』
「巻き込みたくない?」
『うん』
ゾルディック家のことを話したらその経緯についても聞かれるだろう。…そしたらオークションのことにも触れなければならない。そうなれば正に彼らを巻き込んでしまう。
…私は追われる身だ。それは私が捕まらない限り終わらない。最近ヒソカに聞いた話では、ある富豪が"死神"に懸賞金をかけているという。…つまり、とうとう賞金首という訳である。
『……それで、フェイタンの問いの答えなんだけど』
「もういいね」
『……そう』
欲しい答えではないのだろう。フェイタンは言い切るとそっぽを向いてしまった。…ちょっと胸にきた。
「ノア。ノアは今どこに住んでるの?」
パクノダの声で気持ちを切り替える。
『パドキア共和国だよ』
「パドキアって…結構遠いね」
マチの言う通り地図上では離れている。ただ、いつもゾルディックの私有船をお借りしているからそこまで遠くは感じない。
『でも最近は帰ることは少ないかな。ホテルを転々としてるよ』
家に一人で居ると余計なことを考える。…もう思い出せないことを思い出そうとする。それだったら外へ出た方が良い。仕事をしていたほうが良かった。