碧は染まった
□ハンター試験 前半
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ハンター試験。
超難関と言われるその試験には毎年何万人の応募がある。だが、実際に会場にたどり着けるのはそのうちの数百人。実際に試験を受けられるのは万分の一。
「結構たくさんいるね」
「ああ、そうだな」
オレは頷く。…師匠が受験したときも500人前後は居たそうだから予想はしていたが、改めてみると確かに多い。
……出来ればもう少し減っていてくれれば良かったが…そうもいかないか。
「…みんなすごそうだよね!」
「………」
ゴンは自身の感情とは真逆の表情をしていた。期待に満ち溢れた顔。
…最初の船で知り合い、流れで一緒に居ることになった少年。名はゴン=フリークス。自分よりも幼い子供だ。
だが、子供とはいえ持っている能力は軽率出来るものではない。……並外れた身体能力、瞬発力、嗅覚。実際、この会場に来るまでにも彼の能力には助けられた。
「っけ、もっと減ってりゃ良かったんだがな!」
……苦しくも同じ考えに至っていたことを少し恥じた。
まだ走り出して数十分だが汗を滲ませているこの男はレオリオ。この男もゴン同様、始めの船で出会いここまでに至る。
…悪い男ではない。だが、こいつの受験動機を忘れたわけではない。
前方に視線を戻す。皆足並み揃って、という訳ではないが一様に走っている。この遥か前方には試験官がいる筈だ。
第一次試験は試験官に"ついていくこと"。細かなルールはない。だが、簡単なことではない。
どこまで走ればいいのかわからないのはかなり心理的負荷となる。…精神力も同時に試されるわけだな。
「おいガキ汚ねーぞそりゃ反則じゃねーかオイ!!」
横を何かが音を立てながら素早く通っていくと同時にレオリオの怒鳴り声。
見ると丁度ゴンくらいの少年がスケートボードに乗って走っていた。…髪は銀色、それに雰囲気が子供というには落ち着いている。
「オイガキ!!聞いてんのか!反則だろ!反則!!」
レオリオがその子供に食って掛かる。ハンター試験の原則は持ち込み自由。反則でもなんでもない。それを知らないのだろう。…もしくは、レオリオの性格からして知っていても食って掛からずにはいられないのかもしれない。
「何で?」
案の定子供が振り返り疑問を浮かべる。
「何でっておま…こりゃ持久力のテストなんだぞ」
「違うよ、試験官はついて来いって言っただけだもんね」
「ゴン!!てめ、どっちの味方だ!?」
レオリオとゴンのやり取りを横目で眺める。…どれくらい走るのか分からない以上、怒鳴って余計な体力を減らすのはよくないと思うがレオリオにそれが分かる筈もない。
なら、言って教えてやるか。なによりうるさい。そう思い視線を戻す。前方を見て、一瞬、思考が止まった。
「……!」
眼が合って咄嗟に反らす。…それからもう一度見る。まだこちらを見ていた。ただ、それも数秒のこと。何の気なしにまた前を向いた。
それを見てオレも視線を戻す。
…体格からして男だろう。ただ…あまりにも綺麗な顔だった。中性的な顔立ち。その横顔は憂いを帯びている様に感じた。
同じく走っている、のだから彼も受験者なのだろう。……油断は出来ないな。恐らくあの男は相当"できる"。オレを見ていたのも分析だった。
「オッサンの名前は?」
「オッサ…これでもお前らと同じ10代なんだぞオレはよ!!」
「「ウソォ!?」」
「あー!!ゴンまで…!!ひっでーもォ絶交な!!」
「………」
離れよう。
叫んでいるのはここくらいだ。周りの視線も当然集まる。
オレは静かに前方の人混みに紛れた。